序
外科手術は,患者さんに大きな身体的負担(侵襲)を伴うものであり,様々な合併症のリスクが伴う.術後合併症のなかでも,感染症はその頻度や重大さにおいて,筆頭にあげられる「厄介物」と言えるのではないだろうか.
「感染症内科」という標榜を掲げている病院が増えてきている.しかし,「感染症外科」という標榜科は聞いたことがない.では,感染症は内科医が診るべき疾患であり,外科医は知らなくてもよいものだろうか? そんなはずはないことは,外科医自身が一番よく知っている.外科医は,術後感染症という厄介物にしょっちゅう悩まされるのだから.
術後感染症をゼロにすることはできない.世界中どこに行っても,術後感染症のない外科医療は存在しない.しかし,それを減らすこと,限りなくゼロに近づけることはできる.それこそが感染制御,すなわち本書のタイトルにある「インフェクションコントロール」である.
第1章では感染制御の基本,第2章では術後感染症の予防,第3章では治療にも踏み込みつつ感染制御の視点からみた抗菌薬と耐性菌について,それぞれ1名の著者が書き下ろした.外科医の皆さんに関心を持って頂けるよう,極力外科に関連した内容となっている.内科的感染症に関する説明は,他書をご参照願いたい.また,どの章から読んで頂いても構わない.
本書が,皆さんの大切な患者さんを術後感染症から守り,その結果として外科医としての本来の仕事である外科手術になるべく多くの時間を使えることに,少しでも役に立てば幸いである.
2016年3月
山形大学医学部附属病院検査部/感染制御部
森兼啓太