序
今や春の季語ともなった感がある「スギ花粉症」をはじめとして,気管支喘息,アレルギー性鼻炎,アトピー性皮膚炎,じんましん,食物アレルギーなどのアレルギー疾患に悩み苦しむ人は著増して,今や社会経済的にも大きな問題となっている.現時点で全国民の1/3が何らかのアレルギー症状を有していると考えられるが,その症状軽減のためには起因アレルゲンの除去・回避とともに,適切な薬物治療を行う必要がある.この目的に沿って「アレルギー疾患治療ガイドライン」が1993年春に日本アレルギー学会より発表され,1995年には改訂版が,そしてその延長線上に位置付けられる「喘息予防・管理ガイドライン」が1998年に,「鼻アレルギー診療ガイドライン」「アトピー性皮膚炎治療ガイドライン」が1999年に出版,公表された.
ガイドラインに則した形で治療を行えば,アレルギー症例の管理は比較的容易になると考えられるが,本書はこの観点から疾患ごとに抗アレルギー薬の用い方を,経験を積まれた専門医に述べて頂くことを最初の目的とした.抗アレルギー薬はアレルギー疾患の基礎治療薬であり,「喘息予防・管理ガイドライン」においても喘息発作の予防とその維持を目的とする長期管理薬(controller)として記載されている.従来欧米の喘息管理ガイドラインでは,経口抗アレルギー薬はいわば日陰者のように扱われてきたが,1997年のアメリカNIHのExpert Panel Report II以降はロイコトリエン阻害薬にはcontrollerとしての位置付けが明確に与えられて,現在に至っている.本書ではそのような最近のトピックスを含めて,お述べ頂くことができたと思う.
それとともに読者諸兄が診療時にすぐに参照可能なように,各製薬会社学術部にお願いして個々の抗アレルギー薬の薬理作用,適応,用法と用量,使用上の留意点を簡潔におまとめ頂いたのも,本書の特徴としてあげることができよう.さらには,抗アレルギー薬の今後の動向に関して現在申請・開発中の薬剤についても,各製薬会社開発部に無理をお願いして御記載頂いた.
読者諸兄が本書をうまく応用なさって,抗アレルギー薬をたくみに用いる診療を行って頂くことで,アレルギー症例のQOL向上へ少しでもつながることになれば,編集者としては望外の喜びである.最後に,本書作製にあたって御多忙中にもかかわらず御協力頂いた執筆者各位,ならびに中外医学社関係各位に深謝の意を表する.
2000年初頭に
中川武正