基礎から遺伝子治療・再生医療へ
造血幹細胞
小澤敬也 編著
B5判 292頁
定価8,800円(本体8,000円 + 税)
ISBN978-4-498-12510-0
2002年04月発行
在庫なし
基礎から遺伝子治療・再生医療へ
造血幹細胞
小澤敬也 編著
B5判 292頁
定価8,800円(本体8,000円 + 税)
ISBN978-4-498-12510-0
2002年04月発行
在庫なし
造血幹細胞に関する基礎的,臨床的研究が最近極めてエキサイティングになっている.それは新しい医療として脚光を浴びている再生医療に直接関係するからである.
本書は,新しい展開に対応した書として,造血幹細胞の基礎から臨床応用までを夫々の専門家に分かり易く解説していただいたものである.
様々な角度から研究が進んでいる基礎研究から造血幹細胞遺伝子研究,再生医療の現状と方向までを最新の知見に多くの研究者や臨床医に理解し,活用していただけることを企図したものである.
序
21世紀の医療テクノロジーとして大きな発展を期待されているのがゲノム医療と再生医療である.そのいずれの場合も造血幹細胞を利用した治療法が先導的役割を果たしている.ゲノム医療の中核となるべき遺伝子治療には乗り越えなければならない技術的ハードルが依然として数多く存在するが,X連鎖重症複合免疫不全症に対する造血幹細胞遺伝子治療の成功は,遺伝子操作テクノロジーを駆使した治療法の魅力を改めて実感させるものである.また,造血幹細胞移植は既に確立した再生医療の代表的なものであるが,最近脚光を浴びている「骨髄細胞の筋注による血管再生療法」は,新しく生まれた概念である《幹細胞の可塑性》をいち早く取り入れた形の先端治療である.さらに,ヒト胚性幹細胞(ES細胞)の樹立成功は,様々な臓器組織の再生医療への応用に繋がることから,幹細胞医学が一躍クローズアップされる契機となった.この分野では,造血幹細胞の研究が基礎・臨床の両面でトップランナーであったが,狭い血液学の範囲を越えて,様々な領域の研究者や臨床医が参入してくるメジャーな学問分野として現在大きな発展期を迎えつつある.従来の常識を覆すような発見や研究アプローチが次々と報告されており,評価が定まるにはしばらく時間を要するものもあるが,医療に直結する領域であるだけに社会的関心も高まっている.もちろん,これまでも造血幹細胞に関する優れた成書が多数出版されてきているが,急展開を見せている最近の状況に対応したものが強く望まれるようになり,そこで本書が企画される運びとなった.基礎面では,様々な角度から一段と研究の進んできた造血幹細胞の知見について,それぞれの専門家にわかり易く現状を解説していただいた.新しい領域として再生医学の観点からの項目を重点的に取り上げてあるのが本書の特徴ともなっている.臨床応用に関しては,造血幹細胞移植の最近の動向を紹介し,さらに,造血幹細胞遺伝子治療を中心に今後の展開にも力を入れた内容となっている.最後に,ゲノム医療や再生医療で不可避的に発生してくる生命倫理上の問題点について,我が国におけるこの分野の研究の舵を取られている高久史麿自治医科大学学長に執筆していただいた.造血幹細胞に関する単行本として,これまでにない大変ユニークな構成のものが出来上がったことを,執筆していただいた専門家の方々に深く感謝したい.
最近の造血幹細胞研究は,大きな変貌を遂げつつあり,基礎・臨床のいずれにおいても大変エキサイティングになってきている.これまでそうであったように,造血幹細胞に関する研究が中核的役割を担い,様々な幹細胞に関する研究をこれからも牽引していくものと予想される.血液学や血液内科に関係する方々に限らず,より多くの研究者・臨床医によって本書が広く活用されることを願っている.
2002年3月
小澤敬也
目 次
序説 造血幹細胞とその臨床応用 : 新しい展開〈小澤敬也〉
I 造血システムの基礎
1.造血システムの基本概念〈小松則夫〉
1.造血系細胞の体内動態
2.血球分化の模式図
3.造血因子/サイトカインの種類
4.負の調節因子negative regulator
5.造血支持細胞,造血微小環境
6.分化の方向づけとその制御に関する理論などの基本的事項
7.造血幹細胞とCDKインヒビター
文献
2.造血幹細胞の本態〈依馬秀夫,中内啓光〉
1.造血幹細胞の概念と定義
2.造血幹細胞のアッセイ法とその意義
3.造血幹細胞の純化法
4.造血幹細胞に直接作用する因子
5.造血幹細胞のニッシェnicheの概念
6.造血幹細胞の可塑性の概念
文献
3.糖鎖生物学からみた造血幹細胞〈中村 充〉
1.接着分子
2.造血幹細胞のホーミング
3.ストローマ細胞との相互作用
4.血液細胞動員のメカニズム
文献
4.造血幹細胞の発生〈江指永二,竹内眞樹,宮島 篤〉
1.卵黄嚢での造血 : 胎仔型造血の発生
2.P-Sp/AGM領域の造血幹細胞
3.造血幹細胞の発生起源(ヘマンジオブラスト)
4.成体型造血幹細胞の増殖と成熟
文献
5.ES細胞からの造血細胞分化〈仲野 徹〉
1.マウスES細胞
2.マウスES細胞から胚様体への分化誘導
3.ストローマ細胞を利用した神経細胞への分化誘導--SIDA法--
4.ストローマ細胞を利用した血液細胞への分化誘導--OP9システム--
5.OP9システムを用いた造血発生の解析
6.遺伝子操作による造血能改変の可能性
7.ヒト胚性幹細胞の樹立とその利用の可能性
文献
6.受容体/シグナル伝達〈中島秀明,北村俊雄〉
1.造血細胞に発現している受容体
2.各レセプターのシグナル伝達機構
3.造血細胞の分化・増殖とサイトカインシグナル
4.受容体/シグナル伝達の異常と疾患
文献
7.造血幹細胞の転写調節機構〈鈴木教郎,山本雅之〉
1.造血幹細胞のトランスクリプトーム
2.造血幹細胞の転写調節因子
文献
8.造血幹細胞の細胞周期とアポトーシスの制御〈古川雄祐〉
1.造血幹細胞の細胞周期とその制御
2.造血幹細胞のアポトーシスとその制御
文献
9.造血幹細胞のテロメア維持機構〈山田 修,秋山政春〉
1.正常血液細胞のテロメア
2.造血幹細胞のテロメア
3.移植とテロメア
4.血液細胞とテロメレース
5.造血幹細胞のテロメレース
6.細胞移植とテロメレース
文献
10.造血障害の分子機構〈大月哲也〉
1.先天性造血障害
2.後天性造血障害
文献
11.造血幹細胞の癌化〈三谷絹子〉
1.MDS
2.CML
文献
12.造血幹細胞のfunctional genomics〈間野博行〉
1.「ポストゲノム」とfunctional genomics
2.DNAチップとは
3.DNAチップの血液学への応用
文献
II 再生医学に向けた基礎研究
1.造血幹細胞の可塑性と再生医学
A.血管系〈下村泰三,須田年生〉
1.ヘマンジオブラスト--造血細胞と血管内皮の共通の祖先細胞
2.成体における骨髄細胞による血管再生
3.制御因子と受容体/シグナル伝達
4.造血幹細胞と血管内皮の相互作用
文献
B.心筋/骨格筋〈湯浅慎介,福田恵一〉
1.造血幹細胞と間葉系幹細胞
2.骨髄間葉系幹細胞からの心筋細胞の分化誘導
3.成体多能性幹細胞から心筋細胞への分化転換
4.骨髄細胞と骨格筋細胞
文献
C.造血幹細胞から肝細胞への分化転換〈谷口英樹〉
1.造血幹細胞から肝細胞への分化
2.可塑性という現象をいかに理解するのか
3.可塑性の治療応用と問題点
文献
D.神経系…〈村松慎一〉
1.ES細胞
2.神経幹細胞
3.治療への応用
文献
2.Mesenchymal Stem Cellとその応用…〈五條理志,梅澤明弘〉
1.間葉系幹細胞の細胞表面マーカー
2.移植実験からの分化機構への考察
3.心臓・中枢神経系の臓器恒常性維持
4.臨床応用
文献
III 細胞療法としての臨床応用
1.造血幹細胞移植
A.骨髄移植/末梢血幹細胞移植と細胞プロセシング〈室井一男〉
1.自家骨髄移植/自家末梢血幹細胞移植
2.同種骨髄移植/同種末梢血幹細胞移植
3.造血器疾患に対する造血幹細胞移植
4.細胞プロセシング
5.現状の課題と今後の展望
文献
B.臍帯血幹細胞移植〈井関 徹,大井 淳,友成 章,浅野茂隆〉
1.臍帯血バンク
2.臍帯血移植の特徴
3.移植臍帯血の条件と移植方法
4.移植成績
5.成人の移植成績
6.問題点と今後の課題
文献
C.ミニトランスプラント総論〈峯石 真〉
1.ミニトランスプラントの理論的基礎
2.ミニトランスプラントの早期の臨床経験
3.国立がんセンター中央病院での経験
4.その後のミニトランスプラントの発展
5.ミニトランスプラントと混合キメラ
6.ミニトランスプラントと抗腫瘍効果
7.ミニトランスプラントとGVHD
8.ミニトランスプラントの有効な疾患
9.再移植におけるミニトランスプラント
10.ミスマッチ移植におけるミニトランスプラント
11.ミニトランスプラントの今後の発展とT細胞療法
12.ミニトランスプラントの看護上の問題点と精神的サポート
文献
D.癌に対する移植免疫療法〈峯石 真〉
1.歴史的背景
2.90年代におけるミニトランスプラントの発展
3.国立がんセンター中央病院での固形腫瘍に対するミニトランスプラントの試み
4.固形腫瘍に対するミニトランスプラントの理論的基礎
5.固形腫瘍に対するミニトランスプラントの問題点
文献
E.自己免疫疾患に対する造血幹細胞移植療法〈坊垣暁之,天崎吉晴,澤田賢一,小池隆夫〉
1.背景
2.患者の選択
3.治療の実際
4.海外における治療成績
5.現時点での問題点と今後の課題
文献
F.トレランスの誘導と臓器移植〈池原 進〉
1.トレランスの誘導機序
2.アロ骨髄移植によるトレランスの誘導
3.トリプルキメラを用いたトレランス誘導のメカニズムの解析
4.混合キメラマウス
5.骨髄細胞を用いた新しい臓器移植方法
6.モンキーを用いたIBM-BMTの基礎実験
文献
G.血管再生療法〈松井圭司,村上善昭,池田宇一〉
1.angiogenesisとvasculogenesis
2.遺伝子治療による血管新生
3.骨髄細胞筋肉内移植による血管新生
4.自己骨髄細胞移植療法
5.骨髄細胞移植6例の結果
6.血中増殖因子の変動
7.CD34陽性細胞移植
文献
2.樹状細胞療法〈高橋強志〉
1.樹状細胞の性質
2.抗原提示について
3.樹状細胞療法の概略
4.樹状細胞療法の治療評価
5.臨床応用の実際
文献
IV 今後の展開
1.造血幹細胞の体外増幅
A.サイトカイン刺激によるアプローチ〈中畑龍俊〉
1.造血幹細胞増幅の必要性
2.ヒト造血幹細胞の同定と測定法
3.サイトカインによる造血幹細胞の体外増幅の研究の現状
4.gp130の活性化を利用したヒト造血幹細胞の体外増幅
5.ヒト造血幹細胞の体外増幅の臨床応用
6.造血幹細胞の体外増幅の臨床応用に向けた基盤整備
文献
B.遺伝子操作によるアプローチ〈村松理子,花園 豊〉
1.増殖・分化や発生に関与する遺伝子
2.分化抑制,不死化,細胞死抑制の遺伝子
3.ABCトランスポーター遺伝子
文献
2.ゲノム医療としての造血幹細胞遺伝子治療
A.総論 : 臨床研究の現状〈小澤敬也〉
1.造血幹細胞を標的とした遺伝子治療
2.X連鎖重症複合免疫不全症に対する遺伝子治療
3.ADA欠損症に対する遺伝子治療
4.造血幹細胞遺伝子治療の技術的課題と応用 : 今後の展開
文献
B.造血幹細胞への遺伝子導入法〈久米晃啓〉
1.遺伝子導入ベクター
2.レトロウイルスベクター系の概要
3.レトロウイルスベクターの問題点
4.遺伝子導入効率改善に向けて
文献
C.細胞制御遺伝子の開発〈久米晃啓〉
1.薬剤耐性遺伝子導入による受動的幹細胞増幅
2.キメラ受容体遺伝子導入による能動的幹細胞増幅
3.プロドラッグ代謝酵素遺伝子導入による選択的細胞死誘導
4.新規自殺遺伝子による選択的アポトーシス誘導
文献
D.霊長類のサルを用いた前臨床研究〈花園 豊〉
1.造血幹細胞遺伝子治療の問題点
2.なぜサルを用いるのか
3.造血幹細胞のアッセイ法
4.造血幹細胞の培養条件
5.新しいベクター
6.造血幹細胞の体外または体内増幅
7.遺伝子導入細胞に対する免疫反応
8.造血幹細胞の体内動態
文献
3.再生医療 : ES細胞vs組織幹細胞〈花園 豊〉
1.はじめに--幹細胞とは何か?
2.ヒトES細胞株の樹立
3.ヒトES細胞研究の倫理的問題
4.ヒトES細胞の臨床応用に向けての問題点
5.組織幹細胞の可能性
6.組織幹細胞の臨床応用に向けての問題点
7.近未来の医療
文献
V ゲノム医療/再生医療における生命倫理
1.遺伝子診断〈高久史麿〉
2.遺伝子治療
3.再生医学
文献
索 引
執筆者一覧
小澤敬也 編著
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