第2版の序
本書が目的としていたのは『腹部単純X線の読影』のためのcoachingであり,画像診断を用いた臨床推論の実践です.
「腹部単純X線って情報量が多いんですね」と,この本を手に取って頂いた方々からうれしい感想をたくさん頂きました.「腹部単純X線はniveauやfree airぐらいしかわからないと思っていたから,撮影していなかった」という方々から,この本を手にしたことで「腹部単純X線を撮影しようと思う」「診断する楽しみができた」とのお言葉を頂きました.
まさに本書の目的とすることが実現できたものと喜んでおります.
もちろん,診断においては腹部単純X線がすべてではありません. 患者さんに対するきちんとした問診,触診,聴診,打診が必要です.それに加え,採血・検尿,超音波検査などが行われます.以前はその次にCTを撮影することが多かったと思うのですが,腹部単純X線を撮影することで,CTまで撮影の適応を評価することができると思います.診断の精度を上げることは一朝一夕ではできないかもしれませんが,多くの症例を診てゆくと,確実に「透視力」がつきます.
X線は近代医学を飛躍的に発展させてきました.胸部・腹部単純X線からCTへの進化も目覚ましいものがあります.それは「病気を可視化」することができるからです.でも「可視化すること」と,それを「理解すること」はまた別物です.理解するためにはその理論が必要です.本書ではcoachingを,「病態モデル」の作成を行うことで理解しやすくしました.
かつては胸部・腹部単純X線の読影は職人技として心眼を持って診るものとされてきました.しかし,本書を紐解いてCTや病理標本と見比べて頂くと,腹部単純X線でもその「病態」を理解しやすくなるはずです.そして,みなさんが外来で同じような症例と出逢うことがいつかきっとあるはずです.そのときこそ,みなさんの勉強による「気づき」が診断に役立ち,ひいては患者さんの命を救うことにつながることでしょう.
腹部単純X線は,すべての医療関係者が簡単に目にすることができます.
例えば,撮影した放射線技師が依頼医に「ここはおかしいからCTを撮影した方がいいかもしれません」と提案し,「それならば撮影しよう」「なるほどやっぱりCTを撮っておいてよかった」となるような,そんな医療連携ができるとすばらしいですよね.
みなさまのご好評を博し,本書が上梓されて半年ほどで第2刷の準備にとりかかりました.そして今回第2版として,お届け申し上げます.文章をより分かりやすく修正した点が主な変更箇所ですが,幾人かの先生から読影についての質問と疑義を頂きましたので,それらも修正させて頂きました.また,この本の特徴でもある「病態を可視化」するためのイラストも,少数ですが追加させて頂きました.
今後さらに多くの方々に本書を手に取って頂き,皆様のお役に立てることをこころより願っております.
2015年2月吉日
西野 徳之