序
ポータブルの胸部X線写真をある程度理解せざるを得なくなった直接的理由はCTR(心胸郭比)と日々のあまりに大きい画像の変化という2つの問題点です.
1つめのCTRの上限です.我々のfull PACSにもワンタッチでCTRが計測可能な機能があり,CTRの計測を求めてくる臨床医もいます.しかし,条件が立位とは限らず,ポータブル写真や坐位写真も混ざります.同じCTRとして比較してよいのかとの疑問が生じます.成書やRadiologyのstate of the art“Bedside chest Radiology”等を見ても明確には記されていません.いくつかの成書にはポータブル写真では心縦隔影は立位に比較して15〜20%増加すると記されています.出所はどうも同じところの様ですが,単にCTRの上限は立位で50%とした場合に57.5〜60%とは単純にはいかないことも判明しました.ポータブル写真の方が立位よりCTRの正常上限が大きい様ですが,正確な理由や上限値がはっきりしませんでした.そこで,ポータブルに関する論文や成書を調べましたが,有名な本でも充実した内容は書かれていませんでした.
2つめの画像の日々の変動です.特に乳幼児や小児では日々の画像の変動が大きい症例も良く見られます.「前日と比較しましたが,肺野透過性は著明に低下しており,胸水や炎症も疑われます.」とレポートしたら翌日には透過性低下が改善されており,前々日と同じ肺野で,電子カルテを見ると症状は安定しており,愕然となります.
我々も成書や論文の内容チェックでは不充分であると思い,ポータブル写真を理解するのに必要な物理的計測も試してみました.技師からの画像機器と画像処理,デジタル画像の特徴に関する資料を頂き,ファントム実験などの協力も得ました.このことが大きな支えとなり,ポータブル写真をやれる範囲まで調べました.また,理論だけではなく,実証例でCTRの計測も行いました.多くのポータブル写真の症例の検討は医局員の協力なしでは不可能であり,大変感謝しています.また,各臨床医のポータブル写真に対するアンケートも施行できました.臨床医がどこまでポータブル写真を理解しており,何を求めているかがわかり,読影の励みにもなりました.ポータブル写真のみを取り上げた本をどこまで読んでいただけるかという不安はありますが,書き上げた満足感は大変大きいものがあります.間違いもあるのでは? という不安もありますが,とにかく,臨床的に有用であればという期待を込めて,発刊にこぎつけました.
最後になりますが,放射線技師の武 俊夫,藤村一正,新田 勝(技師長)と医局員に感謝の気持ちを伝えたいと思います.
2014年3月
櫛橋民生