まえがき
漢方薬は効くの?
答えは、YES でもあり、NO でもあります。
周囲に葛根湯を飲んだ経験があるか尋ねると、かなりの割合で飲んだ経験があります。そして、効いたという人と効かないという人とは、半々くらいでしょうか?
前者は、ゾクゾクと寒気があって、頭や肩が痛いときに飲むと、汗をかきよくなると答えてくれます。本当に模範解答のように答えてくださいます。
後者は、風邪をひいたから、一日3 回4 日間葛根湯を飲んだけれど効かなかった、とおっしゃります。これまた、典型的な効かない飲み方をしてくださっています。
葛根湯が効くと評価してくださった方は、どういう時期に、どういう症状で、どのように飲むとよくて、どうなるのが治る「サイン」なのかを把握してくださっているのです。素晴らしい!
一方、風邪だから葛根湯を内服するというのは、西洋医学的な考えと投与法です。ここには本来、必要とされるコツや知恵が含まれていません。
今回、この本を書くにいたったのは上のようなことがきっかけです。
漢方医学とは、ただ薬を飲めばいいというのではなくて、病気のどんな時期に、どんな症状で、どれくらいの期間飲むかという、薬にまつわる色んなコツや知恵、養生などを総合的にまとめたものなのです。
「おばあちゃんの知恵の体系化」みたいなものが漢方医学なのです。
昔の人が観察して蓄積したことをあーでもない、こーでもないと、色んな成功や失敗を繰り返して、今の世の中に残してくれた大きなコツと知恵の財産なのです。
こうしたコツや知恵を学ぶには、少し昔の時代背景やその言葉を知っておく必要があります。最初はそこに難しさを感じるかもしれませんが、実際に多くの人が使ってきたものなので、すぐ慣れてしまいます。漢方の上達の鍵は「学ぶより慣れろ」です。
実際に臨床をはじめると、西洋医学だけでは「診断できない」「治療できない」、そんな病態がいっぱいあります。そのため、患者さんが訴えていることを西洋医学的には適切に診断をつけられなくて、不定愁訴として片付けられていることもよく見かけます。こうした不定愁訴でも、視点が異なる漢方医学の理論や知識を勉強することで、はじめて病態が理解できて、納得して共感して医療が行えるようになります。しっかりと漢方医学を学べば、本当の難病にも役立つ武器となります。
この本は、大学病院に臨床研修に来ている学生や研修医の指導内容をもとに記載しました。
マンガだからこそ伝わる行間や雰囲気があるのではないかと思っています。
この本から、漢方の世界に一歩を踏み出していただければと思います。そして、さらにステップアップしたい方には素晴らしい書籍があります。加島雅之先生の『漢方薬の考え方、使い方』です。こちらの本も続けて読んでいただければと思います。
ようこそ、すてきな漢方の世界へ!
板倉 英俊