•序•
わが国でも頭痛に興味をもつドクターが増えており,また,頭痛の正確な診断や有効な治療を求めて受診する頭痛患者もふえてきた.インターネットで頭痛外来を検索すると多数ヒットする.患者さんからの話や,講演会,研究会,学会等で接する情報からは,わが国の頭痛外来はまだまだ玉石混淆の感が否めない面があるが,頭痛に関する認知や関心が徐々に高まりつつあることは喜ばしい.
欧米より10年遅れたが,2000年以降,わが国でも経口トリプタンが使用可能となり,日本頭痛学会,日本神経学会の働きかけにより,片頭痛予防薬もロメリジンに加え,バルプロ酸やプロプラノロールが公知申請で適応追加され,また,アミトリプチンやベラパミルが保険診療における適応外使用が認められるようになった.群発頭痛の治療では2008年に,スマトリプタンの自己注射キットが認可され,ベラパミルやプレドニゾロンの予防療法薬の適応外使用が認められている.このようにわが国の頭痛医療の環境も整いつつある.2013年,日本頭痛学会,神経学会は慢性頭痛の診療ガイドライン2013を改訂公開し,さらに,2014年10月には日本頭痛学会から国際頭痛分類第3版beta版(ICHD―3β)の日本語訳が出版された.国際標準で頭痛を診断し,わが国で選択可能な治療法についてエビデンスに基づいた標準的治療法の情報にアクセス可能となっている.
2013年末に,中外医学社の小川孝志様から頭痛治療薬の本の監修の相談をいただいた.比較的少人数で分担執筆をということであった.以前から頭痛治療に使用する薬剤についての情報をまとめた本があればと考えていたので,すぐにお引き受けした.ガイドラインや国際頭痛分類を補完するような書籍にできればと考えた.執筆者には,親交のある関西の頭痛のエキスパートで,これからの日本の頭痛医療を担う先生方にお願いした.多くの頭痛患者をみておられ,頭痛学会の各種委員会等で活躍されている方ばかりである.それぞれの持ち味を生かし,エビデンスとそれぞれの臨床経験に基づいて,各治療薬の徹底解説をお願いした.I章は序章として片頭痛と群発頭痛のポイントをまとめ,II章 急性期治療薬,III章 予防薬,IV章 サプリメント,代替療法,漢方薬,非薬物療法の構成とした.詳細に記述されており辞書的な使用も可能であるが,通読いただければ,ほとんどすべての読者が何かこれまで知らなかった情報を得ることができると思われる.V章では,様々な頭痛の実際の治療について,テーマごとに執筆をお願いした.各種頭痛の治療,妊婦や小児,高齢者の頭痛の他,これまであまり取り上げられてこなかった一次性頭痛や,群発頭痛以外の三叉神経自律神経性頭痛についても,実際的な治療の解説をいただいた.
本書では原則として,ICHD―3βに沿って記述していただいた.執筆者の多くは,ICHD―3βの翻訳にも協力いただいており,最新の情報を盛り込むことができたことも幸いであった.
本書が頭痛診療に携わる多くの方に何がしかのご参考になり,わが国のオーソドックスな頭痛医療,国際標準の頭痛診断と,エビデンスに基づいた頭痛治療の普及に貢献することができれば,著者一同,望外の喜びである.
2014年10月
著者一同を代表して
竹島多賀夫