序
副作用が全く認められない医薬品は,存在しない.
その事実を受け入れた上で,私たちは医薬品のメリットを最大限に生かして,病と戦う武器のひとつとしている.
とはいえ,副作用がもたらす不利益には,しばしば看過できない内容が含まれている.とりわけ突然死,ショック,けいれん,心不全などのきわめて重大な副作用については,それらが生じうることをあらかじめ心に留めておき,万一の不測の事態に備えておかなければならない.
治療中に生じた予期しない症状などが,医薬品の副作用によるものか否かは,迅速に判断する必要がある.対応の遅れや,わずかな判断ミスが取り返しのつかない健康被害を招きかねない.
新たに生じた症状を医薬品の副作用であると推測するためには,使用中のすべての医薬品をリストアップして,その使用期間と症状発現との間に,何らかの関連性がないかを調べる必要がある.
使用医薬品の種類が少ない場合や副作用誘発作用がよく知られている薬物の場合では,原因薬品の確認は比較的容易である.
しかし,医薬品の種類が多い場合や,従来は報告されていない薬品が原因である場合では,その確認は困難を伴う.このような条件のもとでは,私たちは疑わしい薬をすべて中止して症状が消失するかどうかを観察する必要に迫られる.
加えて,すべての副作用が,医薬品の使用中に出るのではないことも,銘記しておかなければならない.
このような作業を行う場合,リストアップしたすべての医薬品の添付文書やインタヴュー・フォームを見ることが原則ではあるが,それらの資料を集める手間と熟読する時間的なゆとりは,多忙な診療時間内にとても得られるものでない.しかも,副作用症状からその原因医薬品が検索しやすい資料はなかなか見つからない.そこで,著者は常用量で出現しうる「重大な副作用」と「1%以上の出現頻度で認められる副作用」をまとめてみた.その結果,副作用症状から原因医薬品を短時間のうちに推測できる資料が完成した.
本書は,それらの資料を,臨床の場ですぐに役立つように編纂しなおしたものである.
上梓にあたり,企画から編集そして出版にいたるまで,常に最大限の努力を注いで下さった,中外医学社の常務取締役青木滋氏,企画部荻野邦義氏,編集部秀島悟氏に心からの感謝の気持ちを捧げます.
2003年2月 本郷にて
梅田悦生