序
がん薬物療法は,手術,放射線療法と並んでがん治療の中心をなす重要な治療法です.薬物療法は切除不能進行がんに対する第一選択の治療であり,また手術の補助療法としても広く用いられています.抗悪性腫瘍薬は古くはナイトロジェンマスタードの毒ガスから始まり,フルオロウラシル,アンスラサイクリン系薬剤,シスプラチンなどの殺細胞性抗がん剤から最近の分子標的薬まで,多くの薬剤が開発され,現在も使われています.
抗悪性腫瘍薬の目覚ましい進歩により,有効性が飛躍的に向上した一方,それぞれのがん腫で様々な治療法が確立し,治療選択の多様化と適切な適応が求められています.また,治療方法や副作用管理もますます複雑になってきています.最近では,バイオマーカーの発現や特定の遺伝子変異など効果に関わる分子生物学的特徴の明確な分子標的薬も数多く開発されています.劇的な効果が期待される反面,これまでになかった副作用も認められています.
がん薬物療法の効果を最大限に引き出すには,それぞれの薬剤の特徴を十分把握し,正しく適応し,使用することと同時に,迅速かつ適切な副作用対策が必要となっています.
これまでがん薬物療法のテキストやハンドブックは,臓器のがん腫ごとに適応や使い方をまとめたものがほとんどでした.しかし,薬剤からアクセスして,どのようながん腫に用いられ,共通の副作用や使用上の注意があるのか,また臓器による特徴はなにか,などを整理することも,日常診療において極めて有用と考えます.
これまでのたくさんの従来型の抗がん剤に加え,最近では多くの分子標的薬が開発されてきています.また,日々新しい薬剤が登場し,適応も追加されています.そのような状況下で,分子標的薬を含む数多くの薬剤を,種類別に整理し,作用機序と特徴,主な適応や副作用とその対策,さらに適応疾患別の特徴などをまとめておくことは,がん薬物療法を理解する上で大いに役立つと考えました.本書ががん診療の最前線で日々患者さんと向き合う医療関係者にとって,知識の整理と実際の診療の助けとなれば,本書の作成に携わった我々みんなの望外の喜びです.
2014年5月
杏林大学医学部内科学腫瘍内科 教授
古 瀬 純 司