はじめに
古より酒は百薬の長であり,ワインを用いた医聖ヒポクラテスの処方も,今に残されています.そして他の薬と同じように,薬としてのアルコールにも,好ましい作用のみならず,好ましからざる副作用が存在するのです.
最近では,薬の副作用に対する関心が高まっており,多くの人が薬の副作用,特に飲み合わせに関する情報を積極的に求めています.しかし,アルコールと薬との併用についての関心は,あまり高くありません.この点に関しては,薬を処方する医療サイドもそれを受け取る患者サイドも,ともに心情的に避けているのではないかと思うくらいです.
ほとんどの人にとってアルコールは「薬」ではなく「嗜好品」です.しかし,この嗜好品が,薬との併用に乗じて,時に反乱を惹き起こします.
アルコールそのものの(副)作用が出過ぎたり,薬の(副)作用が出過ぎたり,双方の(副)作用が出過ぎたり,逆に薬が効かなくなったりするのです.
このあたりで,今一度,正面から「アルコールと医薬品の相互作用の危険性」について啓蒙すべき時だ,と考えます.医師として医薬品の副作用に関する著書を有し,東京農業大学醸造学科で飲酒生理学の講義を担当し,ワイン学校の校長としてソムリエや多岐にわたるワインの専門家を育てるものとしては,この問題を避けて通ることは許されません.
本書は,次のような手順で著しました.
まず自著「常用医薬品の副作用/改訂版(南江堂)」に掲載した医薬品の中から,アルコールとの併用が禁忌あるいは慎重投与とされているものを選び出し,各メーカーにアルコールとその医薬品との相互作用に関する資料の提供を依頼しました.その結果,提供された資料は膨大な量になりましたが,すべての資料(文献)を十分に検討し,集積した貴重な記述を薬品ごとにまとめ,あるものは原文のままで,あるものは著者の言葉に変えて原稿を作成しました.
アルコールと医薬品の併用に伴う副作用の報告は稀ではありません.表面に現れていない,ニアミス的なトラブルは日常的に数多く発生していると推測されます.医薬品は正しく使用してこそ,真の価値を発揮できます.そのためにも,これからの相互作用に関する知識を確実にする必要があります.
上梓に際し,「常用医薬品の副作用/改訂版」の出版社である南江堂が,著者の真意を理解されたうえで,当該書籍の内容を活用することに同意して下さったことに感謝します.
本書内の症例は,すべて文献によりすでに公表されているものです.
また,本書を企画から実現にかけて最大限の努力を惜しむことなく注いで下さった,中外医学社企画部の荻野邦義氏と編集部の秀島悟氏に心からの感謝の意を表します.
2001年5月 本郷にて
梅田 悦生