「わかりやすい水・電解質と輸液」出版に際して
私が,主に腎臓を学び始めた人を念頭において,「わかりやすい腎臓の構造と機能」と題する入門書を中外医学社より出版したのは,2000年5月のことでした.その同じ中外医学社より,「わかりやすい腎臓の構造と機能」の続編をと依頼され,腎の生体内における大きな役割である水・電解質の調節ということをテーマにして書き始めたのがこの小著です.
私としても,腎臓や水・電解質がわかりにくいという声は往々にして臨床や教育の現場で耳にする言葉であり,そのような声にむけて本を書いてみたいという気持ちは充分にありました.ですから,中外医学社からのお誘いは私にとって望むところでもあったのです.
そこで早速に昨年の7月,「わかりやすい腎臓の構造と機能」の出版後直ちに筆を起こし,最初は勢いにのってすぐに書き上げられるつもりでいました.それが執筆にとりかかってから,もう1年近い時間が経過しました.本来ならすでに書き上げて,とっくにこの書が書店の店頭に並んでいるはずの時期です.
言い訳をするのではありませんが,これだけこの書の上梓に手間取ったのには実は理由があるのです.
昨年夏,この書の最初の数章を書き上げたとき,私は急激な視力の低下に見舞われました.最初は新聞の字が見えにくい程度でしたが,すぐに症状は進み,ワープロの字を画面上でかなり拡大しても読むのが困難なほどになりました.自分自身の不摂生が招いたことですが,糖尿病性網膜症が急速に悪化した結果でした.
この書を書き上げることはもとより,私の職業的生命も危ぶまれる中,私は2000年の9月から10月にかけて駿河台日本大学病院,佐藤幸裕先生の執刀の下,左右併せて計三回の眼の手術を受け,そしてその後合併した眼圧の上昇に対しては,東京逓信病院眼科部長の松元俊先生にお世話になりました.その結果,私の視力は予想以上の回復をみせ,こうしてこの書を書き上げることが叶ったのです.私が,このお二人のドクター達と縁を結ぶことがなければ,あるいはこの書は完成することはなかったかもしれない,そういっても恐らく過言ではないでしょう.
本来これらは私的なことではあるとは思いますが,この書を出版し,世に送りだすに当たって,このお二人のドクター達に心からなる謝辞を申し上げたく,ここに記した次第です.そしてもし,読者がこの書を読んで水・電解質や輸液に関する理解を深めていただけたとしたら,読者もまた,このお二人のドクター達と決して無縁なものではない,そんなこともまたいえるのではないかとも思われます.
この小著の成り立ちにはそのような経緯があります.それだけに私としても,このような紆余曲折を経て完成したこの書物が,「わかりにくい」とされる水・電解質や輸液の理解に臨床の現場でいくらかでもお役に立つことがあればと,願わずにはいられません.
この書の題名に恥じぬよう「わかりやすく」との意図から,本文は水・電解質に関する大きな流れを中心にダイナミックな記述を心掛けました.そしてテクニカルなことや細かい議論は,プラクティカルノートと題した囲み記事の中で独立して扱う体裁としたのは,前著「わかりやすい腎臓の構造と機能」の場合と同様の構成です.
できるだけ現場で働く人々に「わかりやすく」と知恵を絞ったこの書物を,どうぞ心行くまで味わっていただければと思う次第です.
2001年6月
著 者