誰でも人生を楽しく生きたいという気持ちはもっていると思います.60歳前後のご夫婦,結婚以来30年時に喧嘩をすることがあっても,お互いにいたわりあいながら楽しく60年を過ごしてきました.ところが数年前から奥様は右手のふるえに気づき,ここしばらくは歩行障害もでてきて大学病院で調べてもらったらパーキンソン病とのこと.それ以来落ち込んで,毎日病気のことが気にかかり,体重も落ちてきました.それまでは年に1度はどこかへ旅行にも行っていたのに,ご主人が誘っても行く気になれないからとふさぎ込んでいます.病院の主治医はまだ軽いからそんなに心配しなくてもよいというのですが,どうしても将来寝たきりになることが頭を離れません.ご主人は定年を迎え,これからあと奥様と旅行に行ったり,これまでしたいと考えてできなかったことをやりながら楽しく老後を過ごそうと考えていた矢先,奥様の病気ですっかり予定が狂ってしまいました.
本当にパーキンソン病とはそんなに深刻な病気なのでしょうか? この本では,パーキンソン病とはどのような病気なのかをわかりやすく説明し,最後にそんなに心配しなくても,従来通りの生活を続けるよう努力することがこれからの人生を楽しく生きる秘訣であることを理解していただければ大変ありがたく思います.一病息災,今の日本では3人に1人の方が癌で亡くなられるといわれます.その他に脳卒中や心臓発作に見舞われる方も少なくありません.認知症になられる方も沢山おられます.パーキンソン病になったということで,これらの他の病気がなくなるわけではありませんが,2つの病気を合併することは1つ病気があればずっと少なくなります.
最初に大事なことはパーキンソン病とはどのような病気であるか正確な知識を得ることです.次に進行はきわめてゆっくりであること,この進行という言葉にひっかかる方が多くいらっしゃいます.体の機能というのは加齢とともに徐々に衰えてゆきます.パーキンソン病に伴う日常生活の不自由の一部は加齢によります.症状の全てが病気によるとは考えないようにしましょう.パーキンソン病の進行はきわめてゆっくりです.日常生活の中で進行を自覚することはあまりありません.
パーキンソン病には個人差もあります,長年ほとんど症状の進行のない方もあります.またパーキンソン病で死ぬことはありません.パーキンソン病に関連して重篤な状態になる可能性としては,誤嚥による肺炎,湯船の中で滑って水の下にもぐってしまい立ち上がれない場合,家の中で転んで骨折をして寝込む場合などがあります.ですからこれらのことを起こさないように気をつけましょう.薬は始めたら続けるのが原則です.体に害を残すような副作用は存在しません.多少の副作用は色々対策があります.また日常生活でやってはいけないことはありません.国内旅行や海外旅行にも積極的に行きましょう.旅行にでると家の中よりもよく歩けます.食べていけないものはありません.何でも好きなものを沢山食べましょう.お酒を飲んでもかまいません.ただし酔っている間に転ばないように注意しましょう.このようにパーキンソン病ではしてはいけないことはありません.これまで通りの生活スタイルでよいのです.これからも十分人生を楽しむように心がけましょう.
この本では最初にパーキンソン病の説明をして,後半ではパーキンソン病と鑑別しなければならない疾患について解説しました.なおこの本の前半は,平成20年横須賀でパーキンソン病の方々にお話しした内容が基本になっています.そのとき三浦半島のパーキンソン病の方々が私の講演をテープから起こしてくださいました.この方々に深甚の謝意を示します.このご苦労は大変であったと思います.ここに厚く御礼を申し上げます.
2013年10月
水野美邦