序
血栓止血学というと,どちらかといえば取っつきにくい領域と思われてきました.しかし,実は決して難しい領域ではなく,いかに楽しく,一旦理解してしまえば記憶することも少ないとても興味深い領域であることが本書を読めばわかっていただけると思います.
近年,出血性疾患,血栓性疾患ともに病態,検査・診断,治療の各面で新たな展開がみられています.薬剤も,新規経口抗凝固薬(ダビガトラン,リバーロキサバン,エドキサバン,アピキサバン),遺伝子組換えトロンボモジュリン製剤,エクリズマブなどが次々と登場しました.血栓止血領域の臨床がかつてないくらい脚光を浴びている今,本書の果たす役割は大きいのではないかと思います.
血栓止血学の基礎から詳細に論じた専門書や雑誌は多数ありますが,本書はあくまでも「臨床に直結する」を意識しています.換言いたしますと臨床に直結するとまではいえない基礎的事項は思い切って割愛して,そのぶん臨床的な内容を充実させています.血栓止血の臨床をしみじみとわかっていただくための入門書です.
教科書的な基本知識にとどまらず,以下の内容を充実させています.
・ここがコンサルトされやすい!
・ピットフォール
・お役立ち情報
・症例紹介:各疾患のイメージがクリアになると思います.
血栓止血の臨床において凝血学的検査の適切な評価は最重要です.凝血学的検査をきわめれば,血栓止血の臨床の8割以上はきわめたといえるかもしれません.各疾患や薬剤の章でも凝血学的検査の話は登場しますが,まず検査の章を最初に組んであるのは,凝血学的検査の重要性を認識しているためです.
想定している読者は血栓止血のエクスパートではなく,以下の皆さんです.
・研修医,一般臨床医
・血液専門医(ただし血栓止血専門以外),血液以外の専門医(特に,循環器内科,脳外科,心臓血管外科,救急部・集中治療部,臨床検査医学,神経内科など)
・臨床検査技師,薬剤師
・医学生,保健学科学生
本書を手にした皆さんが,血栓止血の臨床に興味を持っていただき,日本におけるこの領域のレベル向上がもたらされることを願っています.
平成25年9月吉日
金沢大学附属病院高密度無菌治療部
准教授 朝倉英策
(血栓止血外来担当)