推薦文
この度,頭頸部表在癌研究会の会員を中心とした方々が,「一目でわかる 咽頭表在がんアトラス」を出版されることになった.上部消化管内視鏡医の大森 泰,武藤 学両先生が頭頸部表在癌に関する勉強会の相談に来られたのは2004年1月のことであった.当時国立病院で事務局をお引き受けすることは困難な時代であったが,同年3月の定年を控え1月に退職することに決めていたこと,さらには咽頭表在癌の診断・治療の重要性が認識されてきた時期でもあるので代表世話人を引き受けることにした.以来9年間,年2回勉強会が開催され現在の研究会へと続いている.当初の勉強会では,検査手技,所見の読み方,病理診断などで熱い議論がなされていたが,研究会に移行する頃から共通するところが多く安定した手技,診断となってきた.また症例登録も本格的に開始された.今後多くの施設の協力を得て,長期観察による異時性多発表在癌の実態把握,さらには多発を繰り返し内視鏡下切除が限界となる症例がどの程度あるのか,自然治癒は起こり得ないのか等々,登録事業に期待するものは多い.長期観察による成果には継続的で地道な努力が必要であるが,差し当たりこれ迄の成果を纏めることができないか,と考えていたところ本書の出版を知った.この度編集を担当された武藤 学先生をはじめとする大森 泰,堅田親利,郷田憲一の各先生および多くの内視鏡医,編集担当の渡邉昭仁先生をはじめ岡本牧人,加藤孝邦,岸本誠司,佐藤靖夫,林 隆一の各先生および多くの耳鼻咽喉科・頭頸部外科医,落合淳志,渡辺英伸両先生をはじめとする病理医が集い,時を忘れて熱心な意見交換をした成果が集大成されて,このアトラスが作られたようにも思う.
今後多施設による登録の成果が出るには,まだ時間を要するので,現時点での咽頭表在癌の刊行物が欲しいものだと考えていた折で,真に時宜を得た企画である.入門書としては勿論のこと本書を見ることにより多くの症例を目の当たりにすることができ,耳鼻咽喉科・頭頸部外科医に限らず頭頸部癌診療に携わる総ての医師に役立つと考える.是非手元に置きたい一冊である.
2013年7月
練馬光が丘病院
海老原 敏