はじめに
わが国では,末期腎不全慢性維持透析患者が年々増加しています.私たち医療スタッフは透析療法の導入を少しでも阻止するため努力していますが,必ずしも十分ではありません.最近,慢性腎臓病や急性腎障害といった概念が報告され,速やかな対応とかかりつけ医(非腎臓専門医)・腎臓専門医による医療連携の強化が叫ばれています.将来,腎臓内科を専攻したいと考えている医学生・臨床研修医のみならず,専門としない医学生・臨床研修医においても,この連携については考えておいていただきたいと思います.
医学生・臨床研修医にとっては,知識を整理し患者さんの問題点を取り上げ解決していくことが重要です.特に最近の医師国家試験においては,臨床症例の問題解決型設問や基礎医学との関連問題が数多く出題されているのはご承知の通りです.また,医学教育の国際化推進により,他国から米国で臨床に携わるためにはUSMLEに合格しなくてはならない状況になりました.
今回,順天堂大学腎臓内科 来栖 厚・日高輝夫両君らのご協力と「症例から学ぶ腎疾患の診療プロセス」を以前出版していただいた文光堂の方々のご理解をえて姉妹本として拙著を上梓することになりました.医学生・研修医の臨床症例のまとめとして,本書を大いにご活用いただければ幸いです.また,この30症例のなかから代表的20症例を選び,「Case Studies on Kidney Diseases 20 typical Cases」の英文改訂版(学術図書,非売品)を刊行いたしました.私たちは,これら2冊を活用し臨床教育の充実に一層努めたいと考えています.
本書の内容の不備な点や過不足について,忌憚のないご指導をいただければ幸いです.最後に,本書の出版に際しご尽力いただきました中外医学社の皆様に御礼申し上げます.
2013年初夏
神田川のほとりにて
富野康日己