序
CTの高空間分解能,MRIの高組織分解能は多くのモダリティーを凌駕するすばらしい能力です.大量胸水で肺野透過性が著しく低下した胸部X線写真で,そこにひそむ肺結節を指摘するのは容易ではありませんが,CTでは特に問題なく指摘できます.しかし胸部CT単独の画像診断時に1枚のスキャノグラムを見て,CTでは得られない情報を見つけ,正しい診断にたどりつた経験をもつのは私だけではないでしょう.やはり胸部X線写真の正面像と側面像は胸部画像診断の重要な武器であり,多くの臨床医がその読影に磨きをかけようと努力しています.また,CTが普及しているとはいえ,胸部X線写真の読影が全てという状況も多く,未熟児を含め,立位や移動不可の多くの患者では胸部ポータブル写真のみでの診断と次のステップ決定となることも理解すべきです.
今まで胸部X線写真についての成書が多く出版されており,名著と言われ永く愛読されているものもあります.今回,故大場覚先生の名著『胸部X線写真の読み方』の続編としての『胸部X線写真の読影 ポータブルを含む各種写真の正しい理解』を依頼された時は,喜びとともに全てを学び直し,良いものを書くべきという気持ちで身が引き締まりました.
私の施設では12年間,歯科の画像や整形外科領域の画像診断を含め約600件の放射線全画像を30分以内に読影しています.胸部CTを見て,胸部X線写真の読影の間違いに“しまった”と思う症例がある半面,整形外科の頸部痛症例の頸椎2方向からPancoast型肺腫瘍を診断することもあり,これが本来の放射線科医のあるべき姿と自負しています.これらの経験と知識を今回の著書に全てぶつけていきたいと考えました.
画像診断の向上には2つの面があります.1つは経験に基づく学習で,他は理論的(または科学的)解析に基づくものです.前者は経験学習とはいえ,各病変をCTなどと対比し,時には組織病理像との対比による研究でもあり,やはり科学的学習の一端ともいえましょう.今回理論的(科学的)解析は第1章「ポータブル写真」と第2章「肺病変分布とその特徴,肺容積の変化,肺血管径の変化」のところで多くの研究データに基づいて行いました.胸部X線を読み解く上で役立つ内容を目的としました.皆様のお役に立てればと願っております.
2013年3月
櫛橋民生