はじめに 〜医師にはなぜメンタルケアの知識が必要なのか〜
「医師には,すべからくメンタルケアの知識が必要である」
この一文に対して,皆さんはどのような感想をお持ちでしょうか?
納得いただける部分があるのかもしれませんし,それは言いすぎだと思われる方もいるかもしれません.
「精神科関連の患者はわけがわからなくて困るし,畑違いの医者が手を出して何かあったら怖いから関わりたくない」,これが本音かもしれません.
しかし,少なくとも今現在本書を手に取って,この序文を眺めている方は,おそらくは,何らかの理由で精神科の知識が少しでもつけばいいなという動機がある方でしょう.そして,なるべくお手軽に,できればあまり時間をかけずに精神科関連の患者への対応法が学べればよいと思っていますよね.
精神科の診療所・クリニックは新規開業が増加している一方で,総合病院の精神科は不採算部門とみなされ,閉鎖あるいは人員が削減される傾向にあります.しかし,メンタルケアを必要とする患者は減っているわけではありません.
この事実を鑑みれば,臨床医として働く限り,必ず精神科の知識が必要な患者の処遇を自分で判断しなければならない時が来ると思った方が実勢に近いわけです.
「医師には,すべからくメンタルケアの知識が必要である」
何となくそうなのかも?と思ってきました?
「でも精神科はとっつきづらい」と思われるかもしれません.そしてその感覚は正常です.
精神科には,WBC やCRP などの炎症マーカーのように一目でわかる客観性・再現性のある指標はまったくありませんし,精神的な症状を述べる際にも,わけのわからない用語のオンパレードで,専門書を読んでも何だか煙に巻かれているみたいですよね?
結局,今困っている患者・症例に対して「具体的に」どうしたらいいのかわからないという意味でのとっつきづらさがあるのだと思います.
本書は,研修医あるいは精神科以外を専門とする医師を対象とした入門書として執筆しました.研修医が精神科専門医に疑問・質問をぶつけていく,という構成にしています.もちろん登場人物はフィクションですが,質問内容は,研修医の先生や精神科専門外の先生方から実臨床でよく質問やコンサルトされる内容を主としていますから,読み進めていけば,実際の臨床で困る諸問題の解答例,「じゃあ実際にどのように対応したらいいのか?」の概要がわかるように配慮しているつもりです.
また,本書は以下のことにも注意してまとめています.
・研修医はじめ,専門外の先生方でもわかりやすい表現にするように努める
・ 何冊も専門科以外の著書を購入しなくてもよいように,「これ1 冊で広く浅く網羅できる」内容にするように努める
・ 明日から使用できるように,処方例には一般名ではなく代表的な商品名を記載し,初期投与量,一般的に使用が推奨される処方量を記載する
医学的には間違いのないように校閲を重ねたつもりですが,なるべくわかりやすく平易な記載にするため,ややもするとお叱りを受けるような表現もあるやもしれません.お気づきの点がございましたら,ご指摘賜れば幸いです.
2013 年4 月
児玉知之