はじめに 〜スターターキットなるもの〜
この本は,学部6年生や研修医の先生を主な対象としています.世の中には研修医向けの本が数多くあり,特に救急や病態別のマニュアルは充実しており,目移りしてしまって何を買えば良いのやら.気がつけば同じような本を複数買っている,なんてこともザラです.一方,ベーシックなところ・総論的なところというのは,最近こそ特に診断学においてある程度出てきてはいますが,まだまだ少ないなと感じています.
研修医は全ての科への可能性を秘めている存在ですから,全科の医師が基礎として知っておくべきこと,つまりは総論を学ばねばなりません.パソコンで言うとOS(基本ソフト)になりますね.全ての科で遭遇する共通問題に正しく作動して及第点をゲットできることが目標になります.
ということで,この本は“研修医に必要な総論的知識の始まりを1冊で見渡してもらう”という,カードゲームで言えばスターターキットのようなものをコンセプトにしています.学生さんは早めにこのスターターに触れてもらうことで,研修医になってからの勉強がしやすくなると思います.その総論として診断推論,感染症,輸液,栄養療法を扱いました.ただ,世にあまたある医学書を見ても分かるように,どの分野もそれ1つで厚い本が出せてしまう分量があります.なので,細部までは説明せずあくまでもスターター,はじめの一歩という立場.でも,その一歩の後に背中を少し押せるものでありたいと思っています.なので,総論とはいえやっぱり研修“医”という実感を持ってもらいたく,救急外来に代表される急性期にウェイトを置きました.ブースター的な意味合いですね.各分野でもそうですし,他には救急外来で頻用する検査項目の解釈,そしてエコーの使い方とそれに関わる疾患の解説を加えています.
この本が少しでもみなさんのために,ひいては患者さんのためになってくれたら,著者としてこれほどの喜びはありません.
最後になりましたが,苦楽を共にしてくれている家族,そして最上の教師であるこれまで出会った患者さん方,出版まで自分の変則的なわがままを聞いてくださった中外医学社の宮崎雅弘様には感謝してもし尽くせません.
2013年3月
宮内倫也