序
江橋先生・杉田先生らが筋ジストロフィー患者でクレアチンキナーゼ(CK)高値を発見されてから50 年余りが経過しましたが,その間に医学は急速に進歩しました.分子生物学の発展する中でも筋疾患の研究が世界をリードし1980 年代後半にはDuchenne 型筋ジストロフィーの原因遺伝子が発見されました.その後も続々と原因遺伝子が発見され,その病態も明らかになりつつあります.
このような筋疾患研究の歩みのなかで,わが国の研究者が果たした役割は非常に大きく,筋疾患の名称にも三好先生,埜中先生,福山先生をはじめとする日本人の先生方の名前がついているものが沢山あります.すなわち,筋疾患の臨床と研究はまさにわが国の医師および研究者がリードしてきました.
さらに最近ではPompe 病に対する酵素補充療法が可能になっただけではなく,縁取り空胞型遠位型ミオパチーではシアル酸補充療法,Duchenne 型筋ジストロフィーではエクソンスキッピングによる治療法の治験も開始になっており,急速に治療法の開発が進められています.
本書は筋疾患の診療を行うために初めて勉強をする若手の医師向けに企画されました.最初に大切な点をおさえるために「ポイント」を箇条書きにしてあり,本文もできるだけわかりやすい内容にしました.さらには患者さんに対してどのようにお話しをしたら良いのかの参考に「患者へのアドバイス」も記載しています.
筋疾患は筋炎とよばれる炎症性筋疾患から様々な筋ジストロフィーまで幅が広く,これを担当するのは大人であれば神経内科,小児であれば小児神経科が中心となりますが,いずれも人数が少ない中で,とても幅広い領域をカバーしています.その中で,一人でも多くの医師が筋疾患に親しみを持っていただければと考えています.
最後になりましたが,快く監修を引き受けていただいた内野誠先生,お忙しい中に執筆をいただいた皆様と中外医学社の皆様に感謝申し上げます.
2013年4月
東北大学大学院医学系研究科神経内科 青木正志