序文
私は,日々臨床の現場でルーチンの検査業務に追われる,三度の飯より血管エコーが好きな臨床検査技師である.大学病院の教授でもなければ,医師でもないが,今回,中外医学社の勧めで本書を上梓することになった.
思い起こせば,私が血管エコー検査を始めた20数年前,血管エコーに関する専門書などは存在せず,日々試行錯誤しながら検査を実施していたものである.しかし最近では,これをテーマとする書籍も数多く出版され,知識や技術の習得も随分と容易になったように思われる.にもかかわらずあえて本書『めざせ! 血管エコー職人』の執筆を引き受けたのは,職人としての自負からでもあった.
“職人”とは,「手先の技術によって物を製作することを職業とする人」(広辞苑)を示す言葉とされるが,物は作らずとも,自分の仕事について誰にも負けない自信と誇りを持つ人をも指すと言ってよかろう.血管エコー検査の観察範囲はきわめて広く,これを短時間で効率的かつ正確に行うためには,幅広い解剖学的知識を身につけることはもちろん,装置操作やプローブ走査そのものに充分に習熟することが求められる.ときには匠の技ともいうべき手技が必要とされる場面にも遭遇するのである.
本書は,頸動脈,大動脈,腎動脈,下肢動脈,下肢静脈とオーソドックスな領域別の構成としたが,決して平板な教科書的内容のものではない.各部位における血管の描出方法や観察・評価方法について,日々,現場で苦労を重ねる技師としての視点から,豊富な写真とシェーマを用いて具体的に記述した.もちろん,最先端の話題やガイドラインなども網羅し,本書1冊で血管エコーに関する最新の知識を得られるように心がけた.
始めから読むのでもよいが,興味のある領域から読んでいただいても良い.また中上級者を目指す方には“ひとくちメモ” “ワンポイントアドバイス” “ピットフォール” “見えないところを診るテクニック”などの欄だけを拾い読みしてもスキルアップできるようにまとめてある.血管内治療に携わる医師や技師,看護師の方には,第6章の「穿刺部合併症評価」や「モニターとしての超音波検査」の項に特に目を通していただきたい.
本書は,私が20年間をかけて,苦心して得てきた知識と技術の集大成である.一人でも多くの方々の目に触れ,各部位における血管のアプローチ方法と評価方法,検査のコツなどに関する知識と技術の向上に役立てていただければ幸いである.そして,ひいては本書が,“あなたに診ていただく患者様のためになる本”となってくれることを祈っている.
2013年4月8日
血管エコー職人 山本哲也