序

　心エコー検査は循環器診療に欠かせない検査の一つです．ベッドサイドで，非侵襲的に，繰り返し行うことが可能であり，その場で診断・病態把握を行うことができます．構造物の異常の画像診断ができるだけでなく，血流計測に基づいた心内圧などの血行動態を知ることもできます．この心エコー検査に用いられる装置はコンピューターの発展とともに，その解像度から解析ソフトまで飛躍的に進歩してきています．断層像が得られるようになったばかりの30数年前と比較すると，現在ルーチン検査で計測できる項目は数倍に増加してきました．さらに被検者の症状，異常所見などに応じて追加して計測すべき項目もあります．通常は計測する必要がないものの，ある特定の状況下では計測しなければならない項目は無数にあります．これらの項目までルーチンに計測しているといくら時間があっても検査は終わりません．救急の現場ではざっと画像をみただけでの診断が望まれる場合もあります．心エコー検査の際にはこういった多様な疾患，病態に応じて，どのような項目をどのように計測するかということを判断しなくてはなりません．そして時には，通常の検査に負荷検査をはじめとした非日常的な検査を加える必要性を判断することも求められます．心エコー検査はCTやMRIの検査とは異なり，後から解析すればいろいろな情報が得られるというわけにはいきません．検査の時に必要な項目を記録しておかないと手遅れなのです．
　心エコー検査を行うには，まず画像を描出し，正確な計測を行い，得られたデータから病態を読み解く力が必要です．そして診断を導くためには，解剖の知識，疾患についての知識，超音波の特性についての知識が必要です．本書では，最低限知っておくべき基本的事項から，専門的評価に必要な事柄までを症例を中心として整理して学べるよう配慮しました．日常臨床で必要な100のポイントをあげ，それぞれの臨床的重要性，難易度を1〜4個の★で表示しています．
　執筆は心エコーのスペシャリストに依頼し，基本的事項から新技術を取り入れた計測まで幅広い内容となっています．しかも，いずれも日常臨床に直結しており，Stepとポイントで整理することにより，検査の直前にも手に取って確認できるようにと考えました．本書が心エコーを志す方の，そして心エコーを学んで少し迷いが出てきたという方の道しるべとなることを期待します．最後に，本書の企画からいろいろとご助言いただいた中外医学社の岩松宏典氏に心から感謝いたします．

2012年9月
兵庫医科大学循環器内科主任教授
増山　理

目　次

1．心エコー検査を行うための基礎知識
　STEP 1 超音波装置 〈折居　誠，平田久美子〉　
　STEP 2 心臓の形態
　STEP 3 基本断面
　STEP 4 計測値
　STEP 5 カラードプラ法 〈阿部幸雄〉　
　STEP 6, 7 パルス・連続波ドプラ法
　STEP 8 組織ドプラ法 〈吉田千佳子〉　
　STEP 9 3Dエコー
　STEP 10 経食道心エコー

2．心機能評価
　STEP 11, 12 心臓の収縮能 〈山本一博，井川　剛〉　
　STEP 13〜16 心臓の拡張能 〈合田亜希子〉　
　STEP 17〜21 血行動態評価 〈坂田泰史〉　
　STEP 22, 23 右心機能の評価

3．壁運動評価
　STEP 24 冠動脈の支配領域 〈岩倉克臣〉　
　STEP 25 壁運動評価の実際
　STEP 26 急性冠症候群のポイント
　STEP 27〜30 急性心筋梗塞 〈林　英宰〉　
　STEP 31 右室梗塞 〈石井克尚〉　
　STEP 32, 33 心筋虚血診断
　STEP 34 心筋梗塞の重症化因子，予後悪化因子
　STEP 35 心室中隔穿孔・心室破裂 〈上松正朗，藤田雅史〉　
　STEP 36 心腔内血栓
　STEP 37 仮性心室瘤
　STEP 38 たこつぼ型心筋症

4．弁膜症
　STEP 39 大動脈弁狭窄症 〈正木　充〉　
　STEP 40, 41 大動脈弁狭窄症の重症度評価
　STEP 42 低流速の重症大動脈弁狭窄症
　STEP 43, 44 大動脈弁閉鎖不全症 〈金子明弘，川合宏哉〉　
　STEP 45 二尖大動脈弁
　STEP 46 僧帽弁狭窄症 〈馬原啓太郎，渡辺弘之〉　
　STEP 47 PTMC適応をみる項目は?
　STEP 48 僧帽弁閉鎖不全症 〈中坊亜由美〉　
　STEP 49 機能性僧帽弁逆流
　STEP 50 僧帽弁閉鎖不全症の定量評価
　STEP 51〜54 僧帽弁逸脱症 〈林田晃寛〉　
　STEP 55, 56 人工弁機能不全 〈柴山謙太郎，渡辺弘之〉　

5．心筋疾患
　STEP 57 肥大型心筋症 〈谷　知子〉　
　STEP 58 閉塞性肥大型心筋症
　STEP 59 肥大型心筋症（中部閉塞） 〈中坊亜由美〉　
　STEP 60 心尖部肥大型心筋症
　STEP 61, 62 拡張型心筋症 〈山本一博，井川　剛〉　
　STEP 63 不整脈源性右室心筋症 〈伊藤隆英〉　
　STEP 64 心筋炎
　STEP 65 二次性心筋症：アミロイドーシス
　STEP 66 二次性心筋症：サルコイドーシス

6．感染性心内膜炎
　STEP 67 自己弁 〈芦原京美〉　
　STEP 68 人工弁
　STEP 69 弁瘤，感染性動脈瘤
　STEP 70 ペースメーカー感染

7．異常・正常構造物
　STEP 71 粘液腫 〈大門雅夫，高橋由佳里〉　
　STEP 72 心腔内血栓
　STEP 73 正常構造物
　STEP 74 冠静脈洞拡大

8．心膜疾患
　STEP 75 心膜の解剖 〈坂東美佳，山田博胤〉　
　STEP 76 急性心膜炎 〈冨田紀子，山田博胤〉　
　STEP 77, 78 心タンポナーデ
　STEP 79 収縮性心膜炎 〈谷　知子〉　
　STEP 80 コアグラタンポナーデ

9．大動脈疾患
　STEP 81 大動脈解離 〈泉　知里〉　
　STEP 82 Marfan症候群
　STEP 83 大動脈弁輪拡張症
　STEP 84 Valsalva洞動脈瘤破裂
　STEP 85 大動脈炎症候群

10．先天性心疾患

11．その他

索　引

執筆者一覧

増山　理　兵庫医科大学循環器内科主任教授　編集
折居 誠　和歌山県立医科大学循環器内科　
平田久美子　和歌山県立医科大学循環器内科講師　
阿部幸雄　大阪市立総合医療センター循環器内科　
吉田千佳子　兵庫医科大学臨床検査部　
山本一博　鳥取大学医学部病態情報内科学循環器内科教授　
井川 剛　鳥取大学医学部病態情報内科学循環器内科　
合田亜希子　兵庫医科大学循環器内科　
坂田泰史　大阪大学大学院医学系研究科循環器内科講師　
岩倉克臣　桜橋渡辺病院心臓血管センター長　
林 英宰　河内総合病院副院長，心臓血管センター長　
石井克尚　関西電力病院循環器内科主任部長　
上松正朗　関西ろうさい病院副院長，循環器内科部長　
藤田雅史　関西ろうさい病院循環器内科副部長　
正木 充　兵庫医科大学循環器内科講師　
金子明弘　神戸大学大学院医学研究科循環器内科学分野　
川合宏哉　神戸大学大学院医学研究科循環器内科学分野特命教授　
馬原啓太郎　榊原記念病院循環器内科　
渡辺裕之　東京ベイ・浦安市川医療センター循環器内科ハートセンター長　
中坊亜由美　兵庫医科大学循環器内科　
林田晃寛　川崎医科大学循環器内科講師　
柴山謙太郎　東京ベイ・浦安市川医療センター循環器内科　
谷 知子　神戸市立医療センター中央市民病院循環器内科医長　
伊藤隆英　大阪医科大学循環器内科講師　
芦原京美　東京女子医科大学循環器内科　
大門雅夫　順天堂大学医学部循環器内科准教授　
高橋由佳里　順天堂大学医学部循環器内科　
山田博胤　徳島大学病院循環器内科講師　
坂東美佳　徳島大学病院循環器内科　
冨田紀子　徳島大学病院循環器内科　
泉 知里　天理よろづ相談所病院循環器内科副部長　
富松宏文　東京女子医科大学循環器小児科　
谷口 学　福山循環器病院循環器内科　
志賀亜沙美　福山循環器病院生理検査部　
榎本真美　筑波大学医学医療系循環器内科　
石津智子　筑波大学医学医療系臨床検査医学講師　
飯野貴子　秋田大学大学院医学系研究科循環器内科学