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書籍詳細

循環器疾患と生活習慣病

Metabolic Cardiologyの診療

循環器疾患と生活習慣病

山田信博 他編著

B5判 240頁

定価6,600円(本体6,000円 + 税)

ISBN978-4-498-03466-2

2000年10月発行

在庫なし

近年,日本人の代謝病態は急激な変化を示しており,糖尿病,高脂血症,高血圧,肥満,そしてその終着像である虚血性心疾患,脳血管障害は一人の患者に重複してみられ,各々の代謝や循環器といった専門の枠を超え全体を俯瞰した適正な診療が求められている.本書はこうした視点からこれら疾患に対するEvidence Based Medicineに基づいた診断・治療・管理を実践的に解説したものである.重複する病態の正しい理解からの最新の診療の実際を示した最も今日的な臨床の書である.

序 Metabolic Cardiologyの必要性

 病気はその時代の環境によって影響をうけるが,最近では環境要因と多遺伝子に基く糖尿病や高脂血症,肥満が急速に増加している.過去50年間に日本人の代謝病態は急激な変化を示している.低カロリー,低脂肪,高食塩から欧米型の高カロリー,高脂肪の時代になり,さらに運動量の低下が加わり,体内のエネルギー収支のアンバランスによるエネルギー蓄積病態が問題となっている.すなわちエネルギー蓄積病態に伴い,欧米型生活習慣に適応できない素因を持つ人々において糖代謝や脂質代謝の異常,さらには高血圧を生じている.しかも,この時代の特徴ある病態は,個々の素因の多様性のなかで,耐糖能異常,高脂血症,高血圧を同時に発症しうる病態ととらえられるべきであり,肥満やインスリン抵抗性が存在するような病態と共存する.
 エネルギー蓄積病態の蔓延とともに,日本人の疾病構造も変化し悪性腫瘍にかわり,脳血管障害や虚血性心疾患などの循環器疾患が主要な死亡原因となっている.エネルギー蓄積病態あるいはインスリン抵抗性病態では各々の危険因子は重症ではない場合においても,耐糖能異常,高脂血症,高血圧を重積すること(総称してインスリン抵抗性症候群,危険因子重積症候群,metabolic syndrome,あるいはsyndrome Xなどと呼ばれる)により,動脈硬化プラークが形成される.ここにさらに血栓形成要因,循環動態の不安定要因,炎症惹起要因,酸化ストレスなどが重なることにより,プラークの不安定化からプラークの破綻を生じ,生命やQOLを脅かす脳血管障害や虚血性心疾患に至ると考えられる.以上が循環器疾患発症の大きな流れであり,エネルギー蓄積から循環器疾患発症に至る各々の過程では多様な遺伝的素因が関与しており,各々の病態の多様性を規定している.たとえば同じエネルギーバランスであっても肥満を生ずる場合もあれば非肥満の場合もあり,糖尿病の場合もあれば非糖尿病の場合もあるという多様性である.時代の進歩,欧米化は益々この多様な代謝異常を重症かつ重積化させて循環器疾患の発症を増加させるのみならず,若年化させているのが現状である.
 日本における代謝病態の変化は急速かつ顕著であり,動脈硬化症の病像の変化も同様である.代謝病態の変化が著しいことから,従来型の硬い安定型の動脈硬化症から最近の軟らかい不安定型の欧米型の動脈硬化症,いわゆるプラーク破綻による急性心血管イベントまでが混在していることが特徴である.若年者では欧米型の病像が主体となりつつある.このような欧米型の病態では冠危険因子を正常化させるために,生活習慣の是正はもちろんのこと,1つ1つの冠危険因子を適切に治療することが動脈硬化性疾患の早期進展を抑制するために重要であることはいうまでもなく,糖尿病,高脂血症,高血圧の診療はその中核をなしている.個々の患者レベルにおいてどのような代謝病態が背景に存在して,どのような動脈硬化症を形成しているかを十分に吟味しなければならない.その上で,虚血性心疾患に対する予防法や治療法を検討する必要がある.特に最近の虚血性心疾患に関していえば,欧米型の病態が急速に増加しており,欧米において実施された種々の因子に関する一次予防,二次予防のevidenceは,虚血性心疾患を予防し,治療する上で,大変に重要な情報となる.今後,糖尿病,高脂血症,高血圧や肥満の診療は虚血性心疾患などの動脈硬化性疾患の発症を予防し,治療していく中で,ますますその重要性が増加していくことが予想され,疫学データや最新の医学情報をもとにしたエビデンスに基く適正な医療が求められている.代謝病態のみならず,心血管イベントの発症については,他の多くの要因にも注目する必要がある.血管内皮機能,血栓形成,プラークの安定性,マトリックス機能,マクロファージ機能,酸化ストレスなどである.生活習慣の是正,高血糖,高脂血症や高血圧の是正のみならず,必要に応じて抗酸化剤,抗血小板剤などを用いて血管病態に対して適正にアプローチすることが必要であろう.このように虚血性心疾患などの動脈硬化性疾患発症の背景となる病態に基く診療こそmetabolic cardiology であり,今後ますます,多岐にわたる動脈硬化症へのアプローチに対するevidence-based medicine の進歩が期待される.
 糖尿病,高脂血症,高血圧,肥満,そして終着像である虚血性心疾患,脳血管障害は日常診療においてしばしば遭遇し,一人の患者に重複してみられる疾患である.各々の代謝や循環器という専門の枠を超えて,全体の病態を俯瞰した適正な診療が求められている.従来の診療単位を超えて,これらの疾患に対するevidenceや病態に基づく診療であるmetabolic cardiologyの普及が望まれる所以である.本書ではmetabolic cardiologyに関する最近の臨床に役立つ知見が網羅されており,日常診療において必携の書となることを期待している.

2000年8月
山田信博
大内尉義

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目 次

序 Metabolic Cardiologyの必要性  〈山田信博 大内尉義〉

I Metabolic Cardiology:冠動脈系の疾患と糖尿病
A.Evidence-Based Medicineに基づく診療  〈能登 洋〉  
 1.Evidence-Based Medicine(EBM)とは  
 2.EBMの意義  
  a)糖尿病  
  b)高コレステロール血症  
 3.EBMの実践  
 4.診療への応用  
  a)臨床ガイドライン  
  b)総括的疾患管理への応用  
 5.日本における意義  

B.日本人の冠危険因子をどう評価するか  〈江草玄士〉  
 はじめに  
 1.日本人の冠動脈疾患の疫学  
 2.日本における冠危険因子の現状  
  a)血清コレステロール値  
  b)高血圧  
  c)肥 満  
  d)糖尿病  
  e)喫 煙  
 3.日本人と日系米人の冠危険因子の比較  
  a)日本人と日系米人のライフスタイル  
  b)日本人と日系米人の冠危険因子  
 4.日本人の冠危険因子をどう評価するか  

C.インスリン抵抗性の病態と危険因子重積の意義  〈梶尾 裕 川上正舒〉  
 はじめに  
 1.インスリン抵抗性とは  
 2.インスリン抵抗性の病態  
  a)高インスリン血症  
  b)肥 満  
  c)脂質代謝異常  
  d)高血圧  
  e)凝固機能異常  
  f)血管壁におけるインスリンシグナルと血管反応性  
 3.動脈硬化の成因と病態  
  a)動脈硬化巣とその成因  
  b)急性冠動脈症候群  
 4.インスリン抵抗性における冠危険因子の重積  
 おわりに  

D.インスリン抵抗性の診断  〈塩之入太〉  
 はじめに  
 1.インスリン抵抗性評価法  
 2.グルコースクランプ  
 3.SSPG: steady state plasma glucose法  
 4.IVGTT/minimal model test  
 5.insuline tolerance test(ITT)  
 最後に  

E.Evidence based medicineと臨床成績
1.糖尿病  〈小竹英俊 及川眞一〉  
 はじめに  
 1.糖尿病と動脈硬化  
 2.糖尿病に伴う代謝異常  
  a)インスリン抵抗性に伴う代謝異常  
 b)高血糖に伴う代謝異常  
 3.2型糖尿病に対する大規模臨床試験  
  a)UKPDS  
  b)その他の大規模臨床試験  
 4.Evidenceに基づいた大血管障害の予防  
  a)診療の原則  
  b)血糖コントロールおよび高インスリン血症の是正  
  c)高脂血症の是正  
  d)高血圧の是正  
 おわりに  
2.高脂血症  〈寺本民生〉  
 はじめに  
 1.LDLコレステロールの関与  
  a)二次予防試験  
  b)動脈硬化退縮試験  
  c)内皮細胞機能改善試験  
  d)一次予防  
 2.酸化LDLの関与  
 3.レムナントの関与  
 4.HDLの関与  
 おわりに  
3.高血圧  〈金 承範 大内尉義〉  
 はじめに  
 1.長期予後からみた高血圧治療の必要性  
 2.高血圧における長時間作用型Ca拮抗薬の有用性  
 3.利尿薬とβ遮断薬の有用性に関するメタアナリシス  
 4.非薬物療法の有用性  
 5.高血圧の至適降圧目標  
 おわりに  
4.抗酸化療法  〈岩間義孝 杢野浩司〉  
 はじめに  
 1.抗酸化性ビタミン  
  a)疫学試験  
  b)追跡試験  
  c)一次予防試験  
  d)二次予防試験  
 2.プロブコール  
 おわりに  
5.心不全  〈半田俊之介 五十嵐美穂子〉  
 はじめに  
 1.心不全の大規模臨床試験と糖尿病  
 2.心不全の発症機序  
 3.心不全の病態と症候  
  a)心筋梗塞症  
  b)糖尿病性心筋症  
6.不整脈--メガトライアルの結果より  〈村田光繁 小川聡〉  
 はじめに  
 1.心筋梗塞と不整脈  
 2.心筋梗塞後の心機能低下例と不整脈  
 3.慢性心不全と不整脈  
 4.致死的不整脈のトライアル  
 5.メガトライアルの解釈  
7.急性心筋梗塞と不安定狭心症の予防  〈本宮武司〉  
 はじめに  
 1.冠危険因子への介入  
  a)禁 煙  
  b)高血圧治療  
  c)高脂血症の治療  
 2.その他の薬物治療  
  a)β遮断薬  
  b)Ca拮抗薬  
  c)硝酸薬  
  d)アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬  
  e)抗血小板薬  
  f)抗凝固薬  
  g)エストロゲン  
 まとめ  
8.冠動脈インターベンション〈西村重敏 加藤健一 柚本和彦〉  
 はじめに  
 1.安定労作性狭心症  
  a)一枝病変例  
  b)多枝病変  
 2.急性心筋梗塞  
  a)PCIと血栓溶解療法  
  b)PCIとCABG  
 3.不安定狭心症,非Q波心筋梗塞  
  a)内科治療とPCI(CABG)  
 4.Stent治療  
  a)狭心症(balloon治療との比較)  
  b)急性心筋梗塞(balloon治療との比較)  
 5.PCIの適応と限界  
  a)無作為試験,観察研究にもとづく適応  
  b)PCIの成績不良の病型  
 6.今後の方向  
  a)新しいstentと放射線治療  
  b)抗血小板薬IIb/IIIa 受容体拮抗薬とangiogenesis  
 おわりに  

F.高血圧治療の実際〈吉田英昭 島本和明〉  
 はじめに  
 1.高血圧の診断  
  a)病歴聴取  
  b)血圧測定と身体所見,検査  
  c)治療の開始と目標  
 2.非薬物療法  
 3.薬物療法  
  a)各種降圧薬の特徴  
  b)薬物治療の実際  
 おわりに  

G.高脂血症治療の実際〈山下静也〉  
 はじめに  
 1.動脈硬化の成因からみた高脂血症と高脂血症治療の目的  
 2.高脂血症の薬物療法を決定する際に考慮すべき点  
 3.高脂血症に対する薬物療法の実際  
  a)主として高コレステロール血症に対する薬物療法  
  b)主として高TG血症に対する薬物療法  
  c)高コレステロール血症かつ高TG血症に対する薬物療法  
 4.高脂血症治療の大規模疫学試験の成績と動脈硬化抑制のメカニズム  
 5.冠動脈疾患患者および糖尿病患者に合併する高脂血症の薬物療法  

H.肥満症治療の実際〈武城英明〉  
 はじめに  
 1.肥満と肥満症の診断  
 2.脂肪分布による肥満の分類  
 3.内臓型肥満合併症におけるインスリン抵抗性の関与  
 4.遺伝子異常による肥満家系  
 5.食事療法  
 6.運動療法  
 7.行動修正療法および精神療法  
 8.薬物療法  
 9.内臓肥満の改善とともに血清脂質値が正常化した症例の臨床経過  
 おわりに  

II 糖尿病における診療
1.虚血性心疾患の特徴と治療ストラテジー〈西山信一郎〉  
 はじめに  
 1.糖尿病に合併した虚血性心疾患の臨床像  
  a)冠危険因子としての糖尿病  
  b)糖尿病に特徴的な冠動脈病変の特徴  
 2.糖尿病を合併した虚血性心疾患の治療  
  a)薬物治療  
  b)糖尿病を合併した虚血性心疾患に対する血行再建上の問題点  
 おわりに  
2.脳血管障害の特徴と治療ストラテジー〈内山真一郎〉  
 はじめに  
 1.急性虚血性脳卒中の治療方針  
  a)一般的管理  
  b)抗血栓療法  
  c)糖尿病を合併した脳梗塞患者の注意点  
 2.慢性期の再発予防  
  a)アテローム血栓性脳梗塞  
  b)ラクナ梗塞  
3.閉塞性動脈硬化症の特徴と治療ストラテジー〈重松 宏〉  
 はじめに  
 1.糖尿病を併存するASOの頻度  
 2.虚血肢の評価法  
 3.ASO併存例の診断と治療  
  a)肢虚血症状と理学的所見  
  b)X線学的検査  
  c)治療のストラテジー  
 おわりに  
4.心不全治療ストラテジー〈百村伸一〉  
 1.糖尿病を伴う心不全の特徴  
 2.糖尿病における心不全の治療の原則  
 3.最近の慢性心不全の薬物治療  
  a)慢性心不全に用いられる経口心不全治療薬  
  b)アンジオテンシン変換酵素阻害薬  
  c)アンジオテンシンII受容体拮抗薬  
  d)ジギタリス  
  e)利尿薬  
  f)β遮断薬  
  g)アミオダロン  
  h)血管拡張薬  
  i)経口強心薬  
5.血糖コントロールの実際〈塩之入 太 石橋 俊〉  
 はじめに  
 1.目標とする血糖コントロール値  
 2.血糖コントロールの方法  
  a)食事と運動  
  b)薬物療法の選択  
  c)経口血糖降下薬使用の留意点  
  d)心事故や感染症の急性期,周術期のインスリン治療  
  e)通常のインスリン治療  
  f)インスリン導入時のインスリン量の設定  
  g)インスリンの減量  
  h)病気の時のインスリン指導(Sick Day Rule)  
 3.自己血糖測定(Self Monitering of Blood Glucose; SMBG)  
 4.低血糖への対応  
  a)低血糖事故の対応法  
  b)低血糖を起こす患者の注意点  
  c)未明の低血糖  
 最後に  
6.高血圧治療の実際〈片山茂裕〉  
 はじめに  
 1.降圧薬開始血圧と目標血圧  
 2.一般療法  
 3.降圧薬の選択  
 4.各降圧薬の糖・脂質代謝,腎機能に及ぼす影響  
 おわりに  
7.糖尿病に合併した高脂血症治療の実際〈原 眞純 塚本和久〉  
 1.糖尿病患者における高脂血症  
  a)糖尿病患者における高脂血症治療の意義  
  b)糖尿病患者における高脂血症のタイプ  
  c)食餌・運動療法について  
  d)高脂血症治療薬について  
 2.高脂血症のタイプによる治療の実際  
  a)中性脂肪のみ高値の場合  
  b)コレステロールのみ高値の場合  
  c)コレステロールと中性脂肪が共に高値の場合  
  d)HDLコレステロールが低値の場合  
8.抗血小板剤および抗凝固剤の使用法〈内村 功〉  
 はじめに  
 1.抗血小板剤について  
  a)糖尿病の血小板機能異常  
  b)抗血小板剤の使用法  
  c)抗血小板剤の有用性について  
 2.抗凝固剤について  
9.高齢者における糖尿病と虚血性心疾患〈井藤英喜〉  
 はじめに  
 1.高齢者糖尿病と虚血性心疾患の関係  
 2.糖尿病における虚血性心疾患の危険因子  
 おわりに  

III 食事療法の意義と実際〈井藤英喜〉
 はじめに  
 1.動脈硬化予防・進展防止に有効な食事  
  a)総摂取エネルギー量  
  b)脂肪の量と質  
 2.食事療法の実際  
  a)動脈硬化予防・進展防止のための食事療法第一段階:総摂取エネルギーの制限と適正な栄養素配分  
  b)動脈硬化予防・進展防止のための食事療法第二段階:病態別食事療法  
  c)動脈硬化予防・進展防止のための食事療法第三段階:病態別食事療法の強化と飽和脂肪酸の制限の強化--

IV 運動療法の意義と実際〈本山 貢 佐々木 淳〉
 はじめに  
 1.運動療法の意義  
  a)耐糖能異常  
  b)高脂血症  
  c)高血圧症  
  d)肥満  
  e)その他  
 2.運動療法の実際  
  a)運動処方プログラム  
  b)心拍数と主観的運動強度による運動実践  
  c)運動継続のために  
  d)運動靴への配慮  
 3.実施上の留意点  
  a)メディカルチェック  
  b)運動禁忌と注意点  
  c)運動療法実施時の注意点  
 おわりに  

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