序文
筆者が所属する秋田大学大学院では,理学療法学専攻の学部学生が2年次後半に「日常生活活動学実習」の授業で,運動障害者の基本的・応用的動作の評価と誘導・介助の方法について学ぶ.初回の授業で,教員が基本的動作を理解するための基礎知識と原則を講義したうえで,臥位の保持,寝返り,臥位での移動について説明・実演し学生に実技練習をさせる.それ以降の授業では,カリキュラムの前半で,担当学生グループが調べて作成した配布資料に基づいて動作別に基本的動作を解説・実演し,ほかの学生に知識や技術を伝授する.基本的動作について一通り学習した後,自助具の使用目的と使用方法を理解し,カリキュラムの後半では,代表的な疾患患者ごとに基本的・応用的動作について前半と同様に学生主導で理解する形式で授業を展開している.
以前の学生作成の配布資料は文章を打ち込み,わかりやすいものとなるように考えて構成されていたものであるが,近年,文章や図表をスキャナーで読み込み貼りつけるにとどまる資料となってきている.また,動作別(カリキュラム前半)と疾患患者別(カリキュラム後半)とで重複を避けて簡略化したり,作業療法士の分野であるのでという理由で省いたりする状況も生じている.筆者は,配布資料の作成過程の重要性に疑問を感じるに至っている.
本授業を行うにあたって参考となる著書は多くみられるが,運動障害者の日常生活上の動作を広く網羅し,さらに治療的・適応的アプローチの考案にまでつながる著書を見出せない.日常生活活動は患者にとって維持・向上すべき課題の1つであり,理学療法介入によって実現すべき目標の1つである.理学療法士は,患者と目標を共有しつつ問題の解決を図っていかなければならない.これには,適切な評価をし,動作を指導したり人的・物的に介助したりする知識と技術の修得が不可欠である.
これらのため,新たなテキストを作成する必要性を痛感するようになった.本書では,標準的な基本的・応用的動作について扱い,介入方法の発案のヒントとなる各動作の阻害因子も示した.また,随所で「コラム」を挿入し,学生に考えを深めてもらえるよう工夫した.本書が学生のテキストとなると同時に,教員の授業展開の手引きとなることを期待している.
2022年8月
佐々木 誠