はじめに
「先生,○○さん熱を出してるんですけど,どうしますか?」
コレ,医療スタッフなら言ったor言われたことのあるセリフランキングでトップレベルに君臨する頻出文だと思います.
報告を受ける側の医師において,「バイタル安定してるなら“とりあえず”経過観察で.熱型もみたいし.あ,血液培養でもとっといて.しんどそうなら解熱薬使ってもらって」なんていうワイルドな指示を出していることもあるでしょう.また報告する側である看護師さんはじめとしたメディカルスタッフ側としても「血圧とかバイタル安定していて発熱だけなら“とりあえず”指示簿通り解熱薬使って,病棟で先生に会ったときに報告でいいか」なんていう対応をしていることもあるかと思います.もちろんその対応で今まで大きな問題にならなかったのでそれを続けている,ということもあるかもしれません.そうでなくても,患者さんの重症度や背景疾患を鑑みず,一律に同じ対応をしていませんか.
あえて今まで意識はしていなかったけど,そう言われると気にはなる,でも“たかが熱”でしょ……,そんな風に思う方も多いと思います.昨今,不明熱診断の良書が数多く世に出ており,“されど熱”として熱への意識というのは徐々に高まっているように感じます.一方で診断がついた後の実際の発熱・体温管理についてまとまった書籍は自分が知る限りありませんでした.「根拠のない“とりあえず”での対応を卒業し,ある程度自信を持って発熱・体温管理できる必要があるのではないか」「体温管理自体が強い推奨を打ち出せるほどエビデンスの確立している領域でもないが,だからこそ現時点でのエビデンス/知見を踏まえた一方針を提示することは,有意義ではないだろうか」,そんな経緯の末,本書籍の作成に至りました.加えて総論的な体温のモニタリング・管理方法,それぞれの疾患の発熱病態や有害事象などにも触れることで,有機的に理解できることを目標にしています.
今回,救急・集中治療領域で遭遇しうる疾患に対する発熱・体温管理をテーマとしていますが,一般病棟においても遭遇しうるものもあり,クリティカルケアに携わるスタッフのみならず,発熱に遭遇しうるすべての医療スタッフに御一読頂ければと思っています.そんな願いもあり,本文は“指導医ゲキ男”“研修医アツ子”をはじめとした登場人物による会話形式を取り入れ,比較的読みやすい作りを目指しました.フランクさを求めるがあまり,各分筆者の方々のご協力を頂きつつ小生のさじ加減でくだらないセリフも散在されますが(笑),そこも含めて楽しんで頂ければと存じます.
最後に,このような本が出ると“なんでもかんでもガンガン体温管理しようぜ!”的な印象を与えがちですが,本文を読んで頂くとわかるように,病態によっては解熱させないほうがよいものも存在します.低体温などガチガチな管理ではなく発熱を避けようよ,というようなスタンスのものもあります.すなわち“ガンガンやらない”という推奨もあるわけです.自分自身,core policyとして「less is more」「患者さん1st」を常に掲げているのですが,行おうとしている介入の医学的適応を判断し,不要な介入はせず,適応があれば少ない手数と最短経路で患者さんに利益をもたらすことが理想像です.本書籍を通し,そんな“less is more”で“患者さん1st”な発熱・体温管理が行われることを願っております.
[謝辞]
今回突然のご協力のお願いに対し,大変お忙しいのにもかかわらずご快諾頂き,監修として支えて頂いた野々木宏先生,本当にありがとうございました.先生と共に書籍が作れたことを誇りに思います.
分筆協力頂いた諸先生方,本当にありがとうございました.働いている場所は違えど,このような形で一緒に仕事ができたことを大変嬉しく思います.
主に総論での分筆協力頂いた当院スタッフの皆様,本当にありがとうございました.僕から多少面倒くさい指示が出ても大目にみて下さい(笑).
今回御担当頂いた弘津香奈子様はじめ中外医学社の皆様には企画〜出版まで大変ご迷惑をお掛けしましたが,ご尽力のお陰で良書を作ることができました.本当にありがとうございました.
2022年3月
静岡県立総合病院 集中治療センター集中治療科/急変対応科
太田啓介
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本書の企画・監修にあたり
本企画の相談を受けたときに,多くの集中治療室で勤務し,日夜患者さんにベストを尽くしている方々へ少しでも参考になればと提案させていただきました.というより,まだ解決されていないことを皆で「悩み相談」というのが正しい表現かもしれません.
集中治療室では,多くの重症例が熱発します.このまま解熱薬やクーリングでよいか,転帰に悪い影響を与えないか,集中治療室のラウンドをしているときに,太田先生へ常に投げかけていた疑問でした.その無理な疑問に答えていただき,今回企画担当で素晴らしい執筆者の熱意溢れる原稿をまとめあげていただきました.深謝いたします.日常の診療に役立ち,また何が解決されていないのかが,指導医と研修医とのやりとりでよく理解できます.
わたくしは長年JRC蘇生ガイドラインの編集を担当し,また心拍再開後の低体温療法の臨床研究を行ってまいりました.
心停止の心拍再開後には再灌流障害などの臓器の炎症によりほとんどの症例で熱発します.また外傷や重症脳血管障害でも同様です.体表面や深部体温で熱発しているときに,脳内ではさらに高温にさらされていることを想像すると常にこのまま経過観察でよいのか,あとで後悔しても脳障害は不可逆で社会復帰は困難な症例を多く経験してきました.2000年以降に低体温療法のエビデンスが報告され,臨床的な疑問点を解決するため多施設共同研究“J-PULSE-HYPO”を推進し,その効果を内外に発信してまいりました¹).ただ,脳障害の重症度を把握する方法が確立されていないため,海外からのエビデンスとの相違があり,解釈に難渋することがまれではありません.
皆様方は,2013年と2021年に報告された北欧からのTTM²),TTM-2試験³)の結果はご存じかと思います(本書の70頁以降に詳述).心拍再開後の体温管理で33℃群と36℃群に無作為に分けた北欧の検討で,両群の転帰に差がなく,また新たに実施した33℃と37.5℃群でも差がみられませんでした.この結果,積極的な低体温療法が適用されなくなる懸念が生じ⁴ました.ただ,考慮しておく必要があるのは,北欧が極めて特殊な地域で第一発見者のCPR実施率が8割以上,初期心電図の心室細動の比率が高いことから,心停止による脳障害が軽度である可能性があります.この結果を世界中のreal-worldに適用するにはリスクを伴います.実際,36℃の体温管理のプロトコルを適用した地域から転帰不良の例が増加したという結果も報告されています⁴).したがって,体温管理療法についても個々の症例の病態に基づき目標温度を設定する必要があります.平温(36〜37.5℃)においても質の高い体温管理が必要なのは言うまでもありません.
このように目の前の熱発をみたときに,病態やこれまでのエビデンスに基づいた対応が必要となります.本書は,そのような場合の悩みに一緒に考えてくれる良書と考えます.広く読まれることを願い,解決の糸口を見出していただければ幸いです.
■参考文献
1)Yokoyama H, Nagao K, Hase M, et al. Impact of therapeutic hypothermia in the treatment of patients with out-of-hospital cardiac arrest from the J-PULSE-HYPO study registry. Circ J. 2011; 75: 1063-70. PMID: 21471669
2)Nielsen N, Wetterslev J, Cronberg T, et al. Targeted temperature management at 33℃ versus 36℃ after cardiac arrest. N Engl J Med. 2013; 369: 2197-206. PMID: 24237006
3)Dankiewicz J, Cronberg T, Lilja G, et al. Hypothermia versus normothermia after out-of-hospital cardiac arrest. N Engl J Med. 2021; 384: 2283-94. PMID: 34133859
4)Bray JE, Stub D, Bloom JE, et al. Changing target temperature from 33℃ to 36℃ in the ICU management of out-of-hospital cardiac arrest: a before and after study. Resuscitation. 2017; 113: 39-43. PMID: 28159575
日本蘇生協議会代表理事
大阪青山大学健康科学部
野々木 宏