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書籍詳細

エビデンスをめぐる往復書簡

エビデンスをめぐる往復書簡

―EBM実践の向こう側

青島周一 著 / 名郷直樹 著

A5判 200頁

定価3,520円(本体3,200円 + 税)

ISBN978-4-498-01416-9

2022年04月発行

在庫あり

エビデンスが,そして統計が我々にもたらすものとはいったい何だろうか? 「健康」か「公共」か,それとも情報の「誤配」なのか……コロナ禍という「日常」生活を営みながら,科学と世間の間に横たわる様々な事象について医師と薬剤師が交わした一年に及ぶ往復書簡の一部始終を公開.

著者紹介
青島周一(あおしま しゅういち)
医療法人社団徳仁会中野病院薬剤師.2004年城西大学薬学部卒業.保険薬局勤務を経て,2012年より現職.特定非営利活動法人アヘッドマップ共同代表.薬学生新聞,日刊ゲンダイ,日経ドラッグインフォメーション,m3.comなどでコラムを連載中.
主な著書(単著)は,『OTC医薬品どんなふうに販売したらイイですか? ―「全くない」と「ほとんどない」の間にある,ふわふわした効果を探す物語』(金芳堂・2021年),『視野を広げるエビデンスの読み方 ― 医学論文を読んで活用するための10講義』(中外医学社・2020年),『薬の現象学 存在・認識・情動・生活をめぐる薬学との接点』(丸善出版・2022年)など.

名郷直樹(なごう なおき)
武蔵国分寺公園クリニック名誉院長.名古屋に生まれ,栃木の自治医科大学で学ぶ.2011年東京の西国分寺で開業.EBMに憑りつかれ,多くの論文を読みつつ臨床医として働いてきたが,その限界を感じ,2021年末をもって院長を引退し,現在は臨床から離れ自宅でゴロゴロする毎日.『いずれくる死にそなえない』(生活の医療社・2021年)や,本書がベストセラーになって,印税生活ができないかな,などと夢想している.

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序文

 「区切り」という言葉があります.とても多様な意味を含む単語ですが,多くの人にとって,「区切り」は何かの目印になるものでしょう.時間的にも空間的にも,僕たちは「区切り」を差し当たりの目標としながら,生活のリズムを構築しています.
2021年.それは僕にとって,師である名郷直樹先生と出会ってから10年という区切りの年でもありました.医学論文を読み続けた10年という区切りの年に,結局のところ論文に示されていることは何だったのだろうか,それは人の生活にどのように関わり,そして僕たち医療者の感情をどう揺さぶるものなのだろうか,あらためて師と対話がしたかったのかもしれません.
 対話とは不思議なもので,あらかじめ用意しておいた構想とは無関係な世界へ導いてくれることがあります.それは,いわゆる「言葉のキャッチボール」にイメージされるような何かではなく,キャッチできずに取り損ねたボールを探し回っていると言った方が良いかもしれません.そして,草むらをかき分けた先に見つかるのは,取り損ねたボールなどではなく,新しい世界の入り口だったりします.
 本書は医学論文についてではなく,医学論文の取り扱いや,人の生活と医療をめぐる現象の数々を往復書簡という仕方で言語化したものです.疾病だけでなく,そのリスクについても関心の眼差しを深めている現代医療において,僕たちが遭遇する慢性疾病の多くは,疾病というよりはむしろ「状態」です.高血圧や糖尿病の治療が当たり前のように受け入れられているのは,これらの「状態」がもたらすリスクとその管理が,社会的に広く認知されているからに他なりません.このことはまた,高血圧や糖尿病に関する論文に示されている事実とは無関係に営まれている側面があります.
 医学論文には少なからず社会的な視点が含まれており,個々人の生活状況とは小さくない隔たりがあります.一方で,隔たりのように感じられるものは実は隔たりなどではなく,社会と個人の間に広がるグラデーションに,医療者の価値観で区切りをつけているだけかもしれません.恣意的な区切りを取り払い,人の生活と社会をつなぐためのかけ橋を作る.本書はそうした試みでもあります.往復書簡に綴られた言葉たちが,健康思想に満ち溢れた生活の中に,ささやかな豊かさをもたらすことができたら幸いです.

2022年3月8日
春の兆しを感じる栃木市にて
青島周一

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目 次

第一便
 コロナ禍における副腎
  メタアナリシスや95%信頼区間のこと
  副腎に求め続けた10年
  健康第一は間違っている

 日常と非日常、そして偶然 ─ 外出自粛とめんどくさいの間で
  「日常」は「非日常」を含む
  人が無事に生まれる「日常」
  「日常」と「非日常」の境界
  「偶然」を排除しない「日常」

 [コラム] 副腎に求めよ ― 関心のない所にこそ重要なものがある。

第二便
 予測不可能な日常を想うこと
  日常と偶然、非日常と必然
  きっかけをたどる
  偶然から必然へのグラデーション
  統計が示すもの

 「きっかけ」もまた「偶然」─「全体」の大部分は偶然
  「きっかけ」について考える
  「偶然」としてのきっかけ
  「世の中は偶然に満ちている」
  「偶然と必然」

  全体は「偶然」から生じ、「偶然」は全体の中にしかない
  「出会い」

第三便
 生活世界という名の豊さ
  多面的に考える
  自然の数学化と尋問する言葉
  喫煙と生活の豊かさ、そして健康
  健康を目指す社会の果てに
  少し先の未来予測と豊かさ

 「偶然」、「出会い」─ 健康の話題から離れて
  偶然の出会い
  病気との出会い
  病気との出会いが新たな出会いへ導く

第四便
 成り行きに任せた先にあるもの
  読むこと、書くこと
  偶然を必然として取り出す眼差し
  依存先を作るということ

 「自立」「依存」の対立から、「出会い」へ ─ エビデンス・ナラティブ、AI
  読むことから書くことへの変化
  科学より科学でないものに依存
  エビデンスからナラティブへ
  ナラティブからAIへ
  依存先としてのAI
  「依存」と「自立」の間で

第五便
 「こじつけ」性の使い方
  人生の目的というようなものと因果的思考
  なぜ論文を読むのかという理由の一般化の中で
  効果が「ある」とは……
  関係性で考えてみる
  ナラティブ、関係性、そしてクオリア

 目的に沿った健全な対応から離れて ─ 集団のデータから個人個人を想像すること
  目的をもつことで出会いを見失う
  「こじつけ」の「健全性」
  「健全性」と、「個別化」
  「他人事」であることの「健全性」

第六便
 現象を救う言葉と詩人
  観光客という視点
  エビデンスの活用と「言葉」による誤配
  観光客的な知の在り方がもたらす可能性

 情報のあいまいさ ─  「甘い言葉ダーリン」と「津軽海峡冬景色」
  「あてのない旅人は知らない」
  「眠られるゆりかごは売ってない」
  観光客としてのEBM実践
  「甘い言葉」には「あとで」
  「息でくもる窓のガラスふいてみたけど」

第七便
 医学論文と小説、そしてメディア
  翻訳というプロセスで失われるもの
  伝道師に基づく医療!?
  「である」から「すべき」を導けないことについて
  メディアの役割と誤配
  観光客が、くもりガラスをふいてみる景色は一体何か

 「象について何かが書けたとしても、象使いについては何も書けない」
 ─「風の歌を聴け」をきっかけに
  「象」と「象使い」
  「象」すら書けていない現実
  「象学会」と「象使い学会」
  「かすみ」を見る
  「かすみ全体」を見る統計学

第八便
 全体を見つめる眼差し
  描けない象について
  人類にとっての良し悪しを考えること

 「象」の記述が差別を助長する ─ 「象使い」の記述の困難さ
  平均値は実在しない
  「象」と「自分」の距離を測る
  降圧療法と高血圧患者の距離
  病気のコントロールによる差別の助長
  エビデンスの右翼的側面
  人間を除外した「全体」

第九便
 「風の歌を聴け」
  鼠の父親と夏の手前
  社会的他人事、そして個人的自分事
  消えた象の行方
  本来的……の危うさ
  「全体」を言葉にする試み

 予防における個人と社会のギャップ ─ 他人事と自分事の境界
  個別のワクチン体験
  自分事と他人事の境界
  個人と社会がつながる「全体」
  ワクチン、降圧薬が供えられた神棚
  ワクチンの効果は実在しない

第十便
 月明かりに垣間見る象の姿
  全体とは何だろう
  あらかじめ社会的な視点が含まれているということ
  相対主義を徹底化する
  東京タワーの見え方
  僕たちが寝ている間の月とその光

 多様な個人の集合としての「全体」 ─ 統計学的数字も一部に過ぎない
  「数字」で示される「公共」
  「公共」の押しつけとしての統計学
  「公共」の有害性
  「公共」としての「健康」
  多様な個人が考える多様な全体

最終便
 小さなディストピアと均されたみんなの意志
  カーボンニュートラルの問題
  小さなディストピア
  均されたみんなの望みの行方
  統計が導くものとは何か?

 「能動/受動、統計学的統制、自己決定」と、「中動態、統計学的自由、一般意志」を行きつ戻りつ
 ― 長いあとがきのようなつけたしの最終便
  パソコンで書くことのメリット・デメリット
  能動態でなく中動態で書く
  何が中動態をもたらしているか
  統計学的統制から統計学的自由へ
  自己決定から一般意志へ
  とりあえずの結論

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執筆者一覧

青島周一 医療法人社団徳仁会中野病院 著
名郷直樹 武蔵国分寺公園クリニック 著

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