序文「刊行にあたって」
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的な蔓延が暗い影を落とし,日本でも緊急事態宣言が発出されていた2021年の春,中外医学社の担当者・五月女謙一様(当時)からご縁を頂き,本書の執筆にとりかかりました.筆者は小児科医になってから20年来,サブスペシャリティとして夜尿症の診療に注力してきました.ご存じのように,2000年代に入ってからランダム化比較試験(randomized controlled trial: RCT)の結果を根拠に,欧米を中心とした国際小児禁制学会(International Children’s Continence Society: ICCS)がエビデンスに基づいた夜尿症の診療指針を提示しました.この流れを受けて,わが国においても日本夜尿症学会から「夜尿症診療ガイドライン」(2005年,2016年,2021年)が発刊されました.
ガイドラインの普及によって夜尿症診療の均てん化はある程度達成されましたが,同時にガイドラインの方針だけでは軽快しない症例が多いこともわかってきました.そのようなときには,最新の論文を読み漁り,知り合いのエキスパートの先生方に診療のコツをお尋ねしながら問題を解決しようと試みるのですが,なかなか骨の折れる作業です.このような背景のもと,「ガイドラインには載っていないような夜尿症診療の『コツや落とし穴』がわかる書籍があればいいな」と常々感じていました.
今回,本書のテーマを“Tips & pitfalls behind the guidelines”としました.筆者が夜尿症診療を通じて気がついた「コツと落とし穴」をざっくばらんに紹介し,ガイドラインには書かれていないけれども重要である内容を『実践編』と『こぼれ話編』の2つに分けて作成しました.
本書が,夜尿症診療にかかわるすべての皆様のかゆいところに手が届くための一助となるのであれば大変嬉しく思います.その先で,夜尿症から解放される子ども達の朝の笑顔に繋がれば甚だ幸いです.最後になりましたが,このような素敵な企画をご提案頂きました中外医学社の五月女謙一様(当時),鈴木真美子様,中畑謙様および制作に携わって頂きました同社のすべてのスタッフの方々に感謝申し上げます.そして夜尿症患者さんを一緒に診療し,困ったときには助言を下さる順天堂大学小児科・腎泌尿器研究班の諸先生方にも,この場をお借りして御礼申し上げます.
令和4年 仲春 コロナ禍終息の先にある新時代を待ちながら
順天堂大学医学部附属浦安病院小児科
西崎直人