はじめに
大人の発達障害.ADHD(注意欠如・多動症).アスペルガー.広汎性発達障害.自閉スペクトラム症(ASD).僕が医師になった20年以上前,専門家ですらあまりなじみのなかったこれらの疾患が,社会一般に普通に知れ渡るようになりました.
背景として,2005年に施行された「発達障害支援法」,「特別支援教育」などの法的・制度的整備が大きく寄与しているのは間違いのない事実でしょう.
一方,急増する患者,社会的ニーズに比べると,その受け皿となるはずの大人の発達障害を診ることができる医師,診ることのできる医療機関は非常に少ないのが現状です.
この本は2014年に初版を執筆し,今回改訂版を出すことになったのですが,初版から8年以上経った現在でも,上記の事情は残念ながらいまも課題として存在しています.
発達障害の診断治療は難しい,ややこしい.そのような先入観が,精神科医にあるのかもしれません.
しかし,自閉スペクトラム症と統合失調症の誤診や,ADHDと抑うつ,不安障害,薬物依存など様々な精神疾患との合併問題などを考えると,「鑑別診断」の観点からも,発達障害の診断技量なしに今後の精神科診療を進めていくのは不可能ではないかと,僕は強く危惧します.
子どもの発達障害については,児童精神科医,小児科医,双方が診ることができますが,大人の発達障害になるととたんに受け皿がなくなります.
大人の発達障害は,正しい知識と少しのコツと,そして1例ずつ症例を積み重ねていくこと,経験していくことで,精神科医なら誰でも診断治療が可能なのです.
この本では,その「正しい知識」と「少しのコツ」について7つのステップとしてまとめました.そして,この7年でアップデートされた内容,コラムも新しく加筆しました!
大人の発達障害診療に携わり,構造化や限界設定というテクニックを駆使することで,何より先生方自身の人生が豊かになることを,保証します.
僕が発達障害臨床に携わっているのは,実はいちばん自分自身に役立つから,なのかもしれません.
情けは人のためならず.まわりまわって己がため,です.
この本を明日からの発達障害診療に役立てていただければ嬉しい限りです.