序文
オンライン診療は情報通信機器を用いる新しい診療形態です.私はそれを,入院・外来・在宅に続く第四の診療形態と考えています.また,オンライン診療は近い将来の遠隔医療の普及,医療全体のデジタル化の基盤となるものです.
オンライン診療はWEB画面上での診療であり,その特性は,物理的距離を超えたアクセスを可能にすること,患者さんが通院の負担なく受診できること,介助が必要な方,妊娠中で動くのがつらい方,多忙な方などさまざまな理由での患者さんの通院困難を解消できることです.また非対面診療であることは,感染曝露の危険をなくせます.このコロナ禍の中ではその重要性が明確になりました.さらに,WEB上での対話であることが患者さんの安心感につながる場合もあります.このような特性を生かした診療の実際を本書ではご紹介しました.
新しい技術を医療施設に導入するには,診療だけではなく事務作業の流れも変えなければなりません.本書では診療所を例にとり,オンライン診療導入の具体的詳細を実践に即した内容で紹介しています.それは診療所だけでなく,導入をお考えの病院勤務医,事務職員の方々にもお役に立つと思います.
日本の社会は未曽有の少子高齢化を迎えています.医療運営にはその大きな影響があります.また,こうした社会の変化とともに疾病構造の変化,患者さんの受療意識の変遷も進みます.これまでと同様の運営方法で医療を維持できるでしょうか.新型コロナウイルス感染症の拡大はその一端を見せたのではないかと思います.
オンライン診療により,患者志向の医療が実現し,また医師自身の専門性をさらに生かすことも可能となるでしょう.私はオンライン診療の普及によってかかりつけ医機能は強化され,さらに地域医療の質を上げることができると考えます.新しい技術はつねに外側からやってきます.オンライン診療という技術を医療者自身の手で育てていくことができればと思い,この本を執筆しました.本書が皆様のお役に立つことができれば幸いです.
なお,ここに書きました内容は2021年10月現在の情報を元にしておりますことをお断りします.
2021年12月
黒木春郎