巻頭言
本書は妊産婦の医療とケアに携わるすべての医療,保健,福祉,行政スタッフが協働して妊産婦のメンタルヘルスをより良くするための基本的な考え方と方法をまとめたものである.周産期は,女性にとっては母親としての第一歩を歩み始める時期であり,新たな家族の幸せが始まる時期でもある.しかしながら,児童虐待を疑う事例は年々増加し続けている.また,妊産婦のうつ病は,妊娠や出産に関連した身体疾患より発症頻度が高く,さらに自殺も重要な問題である.このような背景から本書は,妊産婦のメンタルヘルスについての理解を深め,一歩踏み込んだケアを実践するための内容となっている.
本書は2021年に日本産婦人科医会より発刊した「妊産婦メンタルヘルスケアマニュアル」の改訂版を書籍化したものである.第3章で,各職種がどのように妊産婦と関わっていくかについて解説し,それぞれの職種別に章立てすることで各役割を明確にした.産科スタッフのメンタルヘルス支援は,妊娠中からすべての女性を対象に始める.出産後に保健師が担ってきた産後の母子への援助は,妊娠中から関わっている産科スタッフとの連携を密にすることで,より有意義な貢献ができる.さらに,継続したサポートについては,子どもの長期予後を見据えた視点が必要である.そのことを踏まえ,心理,小児科,精神科スタッフの役割の重要性を明確に示した.今後,多領域連携による支援の幅が一層広がることを期待したい.
日本産婦人科医会では,MCMC(Mental Health Care for Mother & Child)母と子のメンタルヘルスケア研修会を開催してきた.本書の第4章で,この研修会の内容をご紹介している.内容は,入門編,基礎編,応用編に分けて解説されているので,読者の皆様の現在の知識や経験などに応じて,この新たな項を読み,研修会も受講していただきたい.さらに本書では,3つの質問票を使った妊産婦の支援について,新たにロールプレイの項目を設け,支援の実践を具体的に示している.また,MCMC研修会では,e-learningを取り入れているが,その内容も簡単にまとめて紹介されている.近年の自然災害や大規模な感染症の流行の影響を受けて,オンラインでの講習による知識と技術の習得が必要となってきた.本書はその教材としても役に立つ.
最後の章では,これまで通り,多領域連携の実際が記述されているが,今回は,さらに多くの地域の実践がご紹介できた.また,コラムの欄も新たに加えた.簡潔ながら幅広い情報や新たな知識が得られるので,ご一読いただきたい.
この度の画期的な改訂を通して,本書がすべての家族のウェルビーイングに貢献できることを祈念したい.
医療法人風のすずらん会
メンタルクリニックあいりす
院長 吉田 敬子