巻頭言
2021年秋に札幌で日本臨床麻酔学会を主催するにあたり,何か臨床麻酔に役立つ著書を作成できないか検討した.他領域もそうかもしれないが,麻酔科領域も多くの著書が出版されており,何か特徴を出せる内容がないか模索した.そこで,麻酔科専門医を目指す若手麻酔科医にターゲットを絞り,専門医試験の実技・口頭試験に対応できる知識と能力の向上を目的とした著書を目指した.専門医プログラムを見ると,心臓血管外科,脳神経外科,帝王切開術,呼吸器外科,そして小児外科の麻酔管理数が厳密に提示されているため,問題をこれに準じて設定し,一問ずつ実際の解答例を解説した.対面試験の際によく質問されるポイントや「こう答えると評価が上がる」といったTipsを,その分野のエキスパートを厳選し,概説いただいた.
私も,同僚であり本書の編者である准教授の枝長先生にバトンタッチするまで10年以上,麻酔科専門医の筆記試験問題作成ならびに当日の試験官を務めた.枝長先生もここ5年以上試験官を務めている.したがって,麻酔科専門医に求められる技能や対応がどんなものであるかは重々把握しているつもりである.目次を見ていただくとわかると思うが,症状から疾患を診断し,その症状を抱えた状態での麻酔管理を行うという,われわれ臨床医が現場で常に出くわす臨場感がよく出ている.息切れ,発熱・呼吸困難,狭心痛,失神,起座呼吸を伴うような心臓大血管疾患,激痛を伴う帯状疱疹や長期内服患者における麻薬の問題,記憶力の低下,けいれん発作,異常な頭痛を伴う脳外科疾患から始まり,内容は上手く構成,網羅できたと自負している.専門医作成委員らが活用,引用してもおかしくない内容であると思うが(笑),監修者・編者・執筆者ともども何ら試験作成と関係のないことをお断りしておく.専門医試験前に一読することをお勧めするとともに,内容をあらためてよく読んでみると,麻酔専攻医になったばかりの後期研修医はもちろん,すでに麻酔科専門医になられた先生にも役立つ内容ではないかと思う.
さて,今年は学会専門医と機構専門医を目指す専攻医がシステム上,同時に受験できる年である.事務局や試験官は10月に行われる試験に向けて,このコロナ禍のなかその準備に追われているだろう.そこでハタと気付いた.それでは,11月に開催される日本臨床麻酔学会に向けての刊行となると,多くの読者を逃すことになるのではないかと.そのため,執筆者には短い期間での執筆をお願いし,10月下旬の受験に間に合うような時期での発刊を目指した.充実した内容ではあるが,忙しい臨床の合間でも1週間もあれば読破できるような内容であるし,専門医試験用でなければ似たような症例を経験する際の症例報告を読むような読み方も適していると思われる.
本書が,麻酔科専門医を目指す麻酔科専攻医にとって有効に活用していただけることはもちろん,これを手にしてくれた麻酔科医によって患者さんの安全性や麻酔管理が向上することがあれば,企画者としては望外の喜びである.
最後に,この企画にご同意いただき,執筆に関わっていただいた著者ならびに企画を受け入れてくれた中外医学社社長青木氏と担当上岡さまには改めてお礼を申し上げたい.
2021年9月吉日 コロナ禍の終息を祈って
札幌医科大学医学部麻酔科学講座教授
山蔭道明