はじめに
グローバル化の波に取り残されないためには,医療の世界においても世界を経験し幅広い視野を身につけた医師が求められるようになりました.留学に興味がある医師は多い一方で,留学を経験し,的確にアドバイスできる人は多くありません.また,しばしば閉鎖的な日本の医療界では,そのような経験を持つ医師とコンタクトをとることが時に難しく,医師の留学に関する情報やアドバイスを得ることさえ簡単なことではありません.
私はある出来事を契機に,30歳を過ぎてから海外留学を目指すようになりました.当初はアメリカでの臨床留学が目標でしたが,周囲に相談できる人もおらず,大した計画を立てられず渡米を試みました.アメリカの医師国家資格は取得したものの,様々な壁にぶつかるとともに,一度は夢半ばに帰国してしまいました.しかし,夢を諦められず,再渡米しハーバード大学大学院に進学,オーストラリアで臨床留学も経験しました.
私の医師(留学)人生を振り返ってみると,多くの挫折を経験し遠回りをしてきた訳ですが,留学に関する情報の欠如もその一因だと考えています.前述のとおり日本の医療界は閉鎖的ですし,失敗談をシェアし合う雰囲気も欠けています.そこで,私の経験や失敗談をシェアすることで,これからの未来ある医師たちの助けになればとの思いで,ブログ(https://mmbiostats.com)を運営してきました.嬉しいことに,ブログの読者は増え続け,最近ではブログを見たという若い医師や医学生から頻繁に相談を受けるようにもなりました.
これまで留学に関してさまざまな相談を受けていて感じることは,多くの医師は留学に対して漠然としたイメージしか持っていないということです.研究留学・大学院留学・臨床留学は,互いに全く異なるものであるにも関わらず,「どれでもいいから留学したい」といった若い医師も少なくありません.私もそうでしたのでよくわかりますが,これでは通常,一度しかない留学のチャンスを無駄にしてしまいます.そして,そのような医師たちの手助けになるのが,本書であると確信しています.
本書では,これからの未来ある医師が,留学に関して具体的なイメージを持つことができるような,有用な情報を記載しました.私の行動や経験談が刺激となり,何か少しでも今までと違うアクションにつながれば,私にとってこれ以上ない幸せです.
2021年1月
The Royal Children’s Hospital, Pediatric Intensive Care Unit
木村 聡