はじめに
新潟大学産科婦人科学 磯部真倫
「こだわりのTLHの教科書を作ってみたい.」
2020年TLHは,日本で行われる子宮全摘術の約50%を占めるようになった.筆者が研修医の頃はLAVHがやっとであり,TLHがこれまでに日本で普及されるとは思いもしなかった.解剖の理解,エナジーデバイスの進化,動画での勉強,教育ツールの開発,様々な要因があるであろう.研修医もがTLHを行う時代がやってきた.しかし,これほどまでにTLHを行う医師が増えたにもかかわらず,未だに標準化には程遠い.尿管を出す・出さない,使うエナジーデバイスの違い,子宮動脈結紮する・しない,施設による違い,専門による違い.日本産科婦人科内視鏡学会では「TLHの標準化」のセッションは何年も開催されているし,人気のセッションである.医師は標準化という言葉が好きである.これまで出版されてきた腹腔鏡の教科書は,標準化を目的としたものが多い.このようにした方がよいといった論調である.しかし,そもそも標準化は可能なのだろうか? 人にはそれぞれ置かれている状況は違うし,考え方も違う.人それぞれの思いで描かれるTLHに違いがあるのは普通ではないだろうか? 人それぞれに見える世界は違うのだ.
「こだわりのTLHの教科書を作ってみたい.」
そんな思いがこみ上げてきた.俺のTLH,私のTLH,それぞれのTLHがあるのではないだろうか? それぞれの違う立場の医師の視点でTLHを自由に描いてもらう.十人十色のTLHを自由に記載してもらう.もちろん他人の目や技術認定試験など気にしない.標準化ではなく,むしろ「属人的」な方向性とした.よって全国の選りすぐりの「こだわりのある」著者を選定した.若干「変人」も潜んでいるかもしれないが,ここでは「変人」はほめ言葉として扱う.
読者には,様々なTLHがあることを楽しんでいただければと思う.その上で,自分はどのTLHが好きか探してもらう.そして実践に生かしてほしい.そのままでなくてもよい,ハイブリッドでもよい.全く逆の道を進むのもよい.標準化の道を進むのもよい.自由な発想の楽しさを感じていただければ幸いである.そして,エキスパートのTLHを集めて,自分のTLHを作っていただきたい.
また,本書では「地方の若手医師から」と題して3名のラパロスコピストを選んだ.これは,私のこだわりである.私も地方出身であるとともに,症例や教育体制など不利な条件もあるなか,しっかりと技術認定医を取得した「イチ押し」の若手ラパロスコピストである.地方にはロールモデルやメンターが不足している.ぜひ参考にしていただきたい.
今回著者に依頼したのは以下の内容である
(1) 自身のこだわりを箇条書きする.
(2) 自身の置かれた背景,自身のTLHに対する思いを書く.
(3) TLHの記載については適応とか一般論を書くのではなく,自分のこだわりについて書く.手術の全体でもよいが,一部分だけにしぼって書くのもよい.技術認定医試験とか気にする必要はなく,自分のTLHについての哲学に徹底的にこだわる.
(4) 今後のTLHはこうしたい.
(5) 画像,図を多くする.
(6) 動画はできれば音声入り10〜20分で.動画全体を流してもよいが,こだわりの部分を集中的に流してもよい.
(7) ページの多数の増減は可能とした.
思う存分「こだわり抜いた」TLHとその哲学を楽しんでいただければ幸いである.
最後にこの本の出版にあたっては,中外医学社の上岡さんには多数の助言をいただいた.この場を借りて感謝したい.