改訂の序
前版の「東京ER多摩総合マニュアル」は,幸い好評をいただき,増刷を重ねることができました.今回の改訂では,ポケットサイズを維持しながら,いくつかの項目を加えると共に,最近の文献やガイドラインを参照して,全面的にアップデートいたしました.表題から「多摩」をはずしたのは,すでに病院マニュアルとは異なったものであることを反映しています.本書がさらに多くの方に活用され,診療の一助になることを祈っております.
2021年4月
樫山鉄矢
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はじめに
本書は,「東京ER多摩」の前身である「東京ER府中」と共に生まれ,ERを担ったレジデントと共に育ったマニュアルです.
「東京ER」が開設された当時,まだ日本にERを名乗る施設は少なく,ERで実際に役に立つ本はわずかでした.一方北米など諸外国には多数の優れたER本がありましたが,必ずしも日本の現状で使えるものではありませんでした.
右も左も分からない状況で「ER府中」を任されることになった編者が,日本と諸外国の救急本やマニュアルを読み漁り,重要かつ現実的と思われる部分を集約抜粋し,さらに院内の専門医の意見を入れて手造りした冊子が,本マニュアルの前身となったものです.幸いこのマニュアルは,若手医師に好評を博し,広く使ってもらうことが出来ました.
その後,初期臨床研修制度改革などを経て,救急を取り巻く状況も大きく様変わりしました.「ER」は増え,優れたER本も,数多く出版されました.
本マニュアルも,良書が出るたびにその良いところを取り入れ,不要な部分を削除し,さらにレジデントや専門医の意見を入れながら,何度も改訂を重ねました.その意味では,オリジナリティが少なく,類書の「良いとこ取り」のような側面もあります.ただし,専門医の分担執筆とはせず,編集の一貫性を貫いたのが特徴と言えるかもしれません.
救急においては,何よりも「手順」が大切です.羅列的な鑑別診断や検査,治療を挙げても,実際の役には立ちません.本書でも,とにかく「手順」を重視した記載を心がけました.この考え方は,現在済生会福岡総合病院におられる田中一豊先生の著作から影響を受けました.また特にERマインドについては,現在福井大学におられる寺澤秀一先生や林寛之先生から講演や著書を通じて多くを教えていただきました.この場を借りて御礼申し上げます.
最後に,この間ERを支え,本マニュアルを育てていただいた各科の医師,看護師,コメディカル,それから何よりレジデントの皆さんに厚く御礼申し上げます.本当にありがとうございました.
2014年3月
樫山鉄矢