小児白血病の世界―病態の解明から治療まで
真部 淳 著
A5判 150頁
定価3,300円(本体3,000円 + 税)
ISBN978-4-498-22532-9
2021年04月発行
在庫あり
トップページ > 癌・腫瘍一般・緩和医療 > 小児白血病の世界―病態の解明から治療まで
小児白血病の世界―病態の解明から治療まで
真部 淳 著
A5判 150頁
定価3,300円(本体3,000円 + 税)
ISBN978-4-498-22532-9
2021年04月発行
在庫あり
心と身体に優しい治療をめざして成人とは異なる小児白血病の実際を読みやすくまとめた1冊.
非専門医や入門にも最適な基礎や免疫細胞や遺伝子など研究の歴史についてのわかりやすい解説から,トータルケアやALL治療の実際,患者や世界各地のエキスパートとの実話まで,専門医にとっても目から鱗となる著者の経験則が満載.
出版社からのコメント
お寄せいただきました書評をご紹介
「サクセスストーリーとしての小児白血病」
東京医科歯科大学名誉教授
NPO法人日本小児がん研究グループ(JCCG)前理事長
公益信託日本白血病研究基金運営委員長
水谷修紀 先生より
北海道大学教授真部淳先生による「小児白血病の世界」が中外医学社から発刊されました。
真部先生は北海道大学を卒業後小児がん・白血病の克服をめざして、イタリア、アメリカなど世界を渡り歩き、行く先々で多くの仲間を作り、帰国後は国内で大活躍してきたリーダーの一人です。
小児がんの中でも患者数が最も多く、かつては救命率がゼロに近かった小児白血病が今や90%にまで改善され、画期的なサクセスストーリーとしてがん研究の世界では歴史上燦然と輝いています。その歴史的経緯を振り返ることから本書は始まります。1845年の疾患の発見、その後1948年の化学療法剤の発見から臨床研究時代の幕開け、生化学的・免疫学的・分子生物学的診断技術の飛躍的な進歩、そして造血幹細胞移植の開発・普及、直近の分子生物学、免疫学による治療法の登場など白血病に関する科学的発展の経緯がポイントを絞って忠実に描かれています。また、その間に真部先生は国内外の多くのの指導者たちとも交流し、そのエピソードや体験談もたくさん盛り込まれています。読み物としても大変興味深く、真部先生の素直な人となりが反映されているところです。
白血病やがんの診断、治療法はこれからも今まで以上に速いスピードで進むと予想されます。今後の方向性としてはゲノム診断が広く普及し、その知見に基づいて患者一人ひとりに適したPrecision Medicine(個別化医療)の展開だろうと思います。その先に待っているのは全ゲノム解析の時代ですが、この方向性は今後全ての医療分野に共通するものです。さらにその知見をベースに分子標的治療薬の開発も加速し、疾患の治癒像も大きく変化するに違いありません。従来機能回復が絶望視されていた脊髄性筋萎縮症(SMA)において原因遺伝子の発見に始まり、核酸医薬よる転写修飾治療法の開発、そしてそれが瞬く間に遺伝子治療へ、そして今新たに低分子化合物による治療へ展開しようとしていることにその前例を見ることができます。
本書は白血病に関わる若手医師を始め、医学全般を学ぼうとする医学生にもぜひお薦めしたい一冊です。医学全般に到来する新時代を理解するためにも本書は大いに役立つことを確信しています。
最後に、真部先生は2014年に日本における小児がん統一チーム日本小児がん研究グループ(JCCG)の設立にあたって若手医療研究者をまとめるなど、大役を果たされています。
また、この度公益信託日本白血病研究基金運営委員に就任されることになっています。日本白血病研究基金は英国白血病研究基金の薫陶を受けて日本に設立された患者家族による寄付に始まる公益の研究事業の一つです。英国の基金は本書にもたびたび登場するメル・グリーブスが小児白血病が胎児期に始まることを発見するに至った研究を20年以上の間支援してきた民間の基金です。両者は市民の力でがん・白血病を克服する新しい流れを先導するものとして優れた理念を共有しています。
真部先生の今後のご活躍は本基金を支える患者・家族、市民の方々からも大いに期待されていることをお伝えしたいと思います。
――――――――――――――――――――――――――――――――――
「小児白血病の世界」を読んで
聖路加国際病院小児科顧問
細谷亮太先生 より
真部淳先生著の『小児白血病の世界』(中外医学社)はとても面白かった。副題に(病態の解明から治療まで)とある。白血病の歴史、ALL治療の実際、AYA世代のがん、小児がんは遺伝するか、トータルケア、私と白血病の6章に分かれているものの、主に触れられているのは、小児の白血病の主体をなすALLである。
著者と私は聖路加国際病院の小児病棟で一緒に働いた仲間である。年齢は一回り、つまり12歳ほど私が年上である。卒業年次が古いのだ。私は医学部で「小児白血病は不治の病である」と教わり、真部先生は「治せる病気である」と習った。この違いはとても大きいと思う。
私が米国での勉強を終えて日本に戻る時の恩師ストー先生からの宿題は「患児に病名を知らせ、分かりやすく説明しなさい」だった。しかし、道のりは遠く、足掛かりになるかもしれないという思いで『君と白血病』(医学書院)というハンドブックを翻訳、出版した。今から40 年も前のことである。
この度の真部先生の『小児白血病の世界』の最終章は「私と白血病」である。この「違い」に私はとても感動した。12年の時が、白血病をより身近に自分に引きつけて捉えられるように世間を変えたのだということをしみじみと感じたのである。