はじめに
2007年から2年にわたり中外医学社の「Clinical Neuroscience」の連載で脳動脈瘤の経験記を綴りました.この連載は,私自身の臨床医としての心技の歴史であり,数多くの諸兄と後輩に参考にして頂ければと考えまとめました.これをもとに,私の経験した脳神経外科のあらゆるジャンルの手術記を上梓しようと決心し,この本を書き始めました.一脳外科医として,臨床現場で実際経験した手術を自身の記憶に留めるだけではなく描画を通じて記録に残したいと考えました.そこで手術を中心にした内容で脳神経外科の各分野を私好みのタッチで表現させて頂きました.このように気ままなスタイルで編集し始めたことから,書き上げるまでにかなりの年月を費やしてしまいました.この間に,血管内手術が脳動脈瘤の治療を席巻するようになり,頭蓋底手術では内視鏡技術が広く応用されるようになりました.10年余りで脳神経外科の手術への考え方と体制に大きな変化が生じましたが,手段は異なっても病巣へのアプローチには共通した認識が存在すると信じています.このような意味からも私自身の経験をまとめる意義があると思い,この本を仕上げました.僭越ながら,書名を『脳神経外科手術 私のアプローチ』としました.
これまで手術を中心に詳解する教科書は数多くありますが,日本発信のもので概ね単一の著者が統一された哲学で綴ったものは見当たりません.本書は,脳卒中外科および脳腫瘍外科を中心にまとめました.私が,種々の観点から苦労した症例を中心に以下のようなスタイルで仕上げました.そのため入手可能な限り脳血管撮影,MRI画像,CT画像,手術中の画像を提示しようと努力しました.やむなく手術記載から復元することになった部分に関してはご容赦頂きたいと思います.
構成としては,大項目として脳動脈瘤,脳動静脈奇形,脳血管腫,髄膜腫,神経鞘腫,脳室内腫瘍,小脳血管芽腫,頭蓋頚移行部疾患,脊髄腫瘍,小児疾患に区分けし,さらに中項目に分類し最終的に症例を基にした解説となっています.
各々に(1)大・中項目における一般的な理解,(2)症例の紹介,(3)手術の企画と手術後の経過に対する私の考えを加えて解説しました.(4)特に重要と感じている箇所には,重要なポイントとして整理しました.
症例の中には,難度が高い,あるいは注意を喚起させるものが多くあり,特別に長期にわたり経過観察した症例も含まれています.脳神経外科医として約40年の私の経験が,幅広い世代の脳神経外科医のお役に立てれば幸いと考えています.
2021年2月
松居 徹