推薦の言葉
「腎臓学者は頭が悪いのではないか?」「それが証拠に,腎臓病はさっぱり治らないし,透析患者も増える一方だ」「そもそも腎臓病学は分かりにくく出来ている,門外漢が勉強しようと思ってもサッパリ分からない,これは取りも直さず腎臓学者の頭が悪いせいじゃよ」…….これらは,およそ40年前に私が東北大学第二内科に入局して間もない頃に,内分泌学の大御所だった古川洋太郎先生(故人)から頂戴した「お小言」である.
実際のところ,古川先生が仰せられる内容のほとんどは事実だった.一部の疾患を除いては「治らない」あるいは「治りにくい」症例ばかりだったし,分かりやすいテキストが無いのも御指摘の通りだった.新米が勉強しようと思っても,何処から手を付けていいか分からないし,「膜性腎症」と「膜性増殖性腎炎」との違いとか,尿細管性アシドーシス,免疫応答・補体カスケードの話など,どれを取ってもチンプンカンプンな内容が続くのだった.
その当時からすれば腎臓病の診療は大きく進歩した.しかし,教科書内には相変わらず難しい用語や機序解説が並んでおり,「チューター」の力を借りずに独力で腎臓病の内容を理解するのは「至難の業」ではないだろうか.
そういう中で,平成15年に東北大学・腎グループに加わって以来「大車輪」の活躍を続ける長澤 将先生が,その持ち前の馬力と鋭い洞察力を生かす形で,従来のテキストの概念を大きく変える画期的な指南書を完成させてくれた.この「Dr.長澤の腎臓内科外来実況中継」では,誰もが経験する場面の一つ一つを具体的に取り上げながら,「細かい理屈は後回しでいいから,まずはこれだけは覚えましょう」的に,臨床の場で実際に大事なこと,最低限必要なことをコンパクトにまとめてくれている.臨床腎臓病学の入門書として最適,かつ必須の1冊と言えるのではないだろうか.「腎臓病に対する理解を少しでも深めたい」と思っている方々に自信を持って推薦したい.
2021年2月
東北大学名誉教授 JR仙台病院長
佐藤 博
はじめに
東北大学病院で腎臓内科をしている長澤 将(たすく)です.この度は主に初学者や研修医,他科などの非専門医に向けて腎臓内科の思考回路を伝える本を書くことができました(腎臓専門でも初学者や知識の整理に役に立つと思います).他にも腎臓病に興味のある栄養士,理学・作業療法士(もしかしたら言語聴覚士も),さらに製薬企業のMRやMSLなどの人にも役に立つと思います.
学生に「腎臓内科ってどんなイメージ?」と聞くと,「病理が難しい」とか「膜性増殖性糸球体腎炎がよくわからない……」なんて話で,苦手意識を持った返事が返ってきます.実はそのような仕事はごく一部の大きな病院の腎臓内科の仕事であり,本書でメインに書いたような保存期の慢性腎臓病に対して血圧や血糖などのコントロールをしている仕事が多いと思います.実はこの部分に腎臓内科の技が結構たくさん隠されています(血液透析に関しては,「誰も教えてくれなかった 血液透析の進めかた教えます」羊土社;2019年刊,を参考にしていただければと思います).
本書ではガイドラインや最新の大きな論文,師匠達から教えてもらったことなどを元に,自分で経験して研ぎ澄ませていったことを伝えようと試みました.いわば腎臓内科の診療の進化の踊り場にあたるかと思います.この先も診療はどんどん進化していくと思いますが,現時点での知識を整理することで明日からの診療に役に立つと思います.
本書の上梓にあたり,「『論文にしよう!』 と指導医に言われた時にまず読む本」,「カニでもわかる水・電解質」に続いて編集を担当していただいた中外医学社の岩松宏典様,もの凄く手間のかかる校正を担当していただいた桑山亜也様,素敵な挿絵や装丁を担当していただいた大塚千佳子様に感謝申し上げます.
読者の皆様には是非7回読んでいただければと思います.しっかりと確実な知識はかならず役に立ちます.
2021年2月
長澤 将