認知症診療のために知っておきたい法制度・法律問題
川畑信也 著
A5判 212頁
定価3,740円(本体3,400円 + 税)
ISBN978-4-498-32860-0
2020年11月発行
在庫あり
認知症診療のために知っておきたい法制度・法律問題
川畑信也 著
A5判 212頁
定価3,740円(本体3,400円 + 税)
ISBN978-4-498-32860-0
2020年11月発行
在庫あり
認知症患者の暴力行為に対する法的な対応,認知症患者は遺言状を作成できるのか,病名告知の問題など,臨床の現場で直面する法律問題は多岐にわたる.本書では,長年認知症診療に関わってきた著者が,認知症診療に携わるなかで経験する可能性のある法制度・法律問題について丁寧に解説する.
川畑信也(かわばた のぶや)
八千代病院 神経内科部長
愛知県認知症疾患医療センター長
昭和大学大学院(生理系生化学専攻)修了後,国立循環器病センター内科脳血管部門,秋田県立脳血管研究センター(現 秋田県立循環器・脳脊髄センター)神経内科を経て,2008 年八千代病院神経内科部長,2013 年愛知県認知症疾患医療センター長兼任.
1996 年から認知症の早期診断と介護を目的に「もの忘れ外来」を開設し,現在までに8,000 名以上の患者さんの診療を行ってきている.2015 年から愛知県公安委員会認定医(運転免許臨時適性検査),2016 年4 月から愛知県安城市認知症初期集中支援チーム責任者,2018 年2 月から愛知県の西尾市ならびに知立市の認知症初期集中支援チームのアドバイザー兼務.
所属学会:
日本神経学会,日本脳血管・認知症学会,日本老年精神医学会,日本脳卒中学会,日本認知症学会,日本認知症ケア学会,日本神経治療学会,日本神経心理学会など.
著書:
臨床医のための医学からみた認知症診療 医療からみる認知症診療 治療編(中外医学社; 2020)
第二の認知症 レビー小体型認知症がわかる本(法研; 2019)(一般向き書籍)
高齢ドライバーに運転をやめさせる22の方法(小学館; 2019)(一般向き書籍)
認知症に伴う生活習慣病・身体合併症 実臨床から考える治療と対応(中外医学社; 2019)
臨床医のための医学からみた認知症診療 医療からみる認知症診療 診断編(中外医学社; 2019)
事例から考える認知症のBPSDへの対応─非薬物療法・薬物療法の実際(中外医学社; 2018)
改訂2 版 かかりつけ医・非専門医のための認知症診療メソッド(南山堂; 2018)
知っておきたい改正道路交通法と認知症診療(中外医学社; 2018)
プライマリ・ケア医のための認知症診療入門(日経BP社; 2016)
かかりつけ医・非専門医のためのレビー小体型認知症診療(南山堂; 2015)
認知症診療に役立つ77のQ&A(南山堂; 2015)
事例で解決! もう迷わない抗認知症薬・向精神薬のつかいかた(南山堂; 2014)
事例で解決! もう迷わない認知症診断(南山堂; 2013)
臨床医へ贈る 抗認知症薬・向精神薬の使い方 こうすれば上手に使いこなすことができる(中外医学社; 2012)
これですっきり! 看護&介護スタッフのための認知症ハンドブック(中外医学社; 2011)
日常臨床からみた認知症診療と脳画像検査─その意義と限界(南山堂; 2011)
かかりつけ医・非専門医のための認知症診療メソッド(南山堂; 2010)
かかりつけ医の患者ケアガイド 認知症編(真興交易医書出版部; 2009)
どうする? どう伝える? かかりつけ医のための認知症介護指導Q & A(日本医事新報社; 2008)
早期発見から介護まで よくわかる認知症(日本実業出版社; 2008)
患者・家族からの質問に答えるための認知症診療Q & A(日本医事新報社; 2007)
知っておきたい認知症の基本(集英社新書; 2007)
日常臨床に役立つ神経・精神疾患のみかた(中外医学社; 2007)
事例から学ぶアルツハイマー病診療(中外医学社; 2006)
物忘れ外来ハンドブック アルツハイマー病の診断・治療・介護(中外医学社; 2006)
「物忘れ外来」レポート 認知症疾患の診断と治療の実際─すべての臨床医のための実践的アドバイス(ワールドプランニング; 2005)
物忘れ外来21のケースからみる臨床医のための痴呆性疾患の診断と治療(メディカルチャー; 2005)
はじめに
本書は,臨床医を対象に認知症診療に関連する法制度・法律問題をテーマにした書籍であり,著者としては未分野の領域に踏み込んだ内容になっています.なぜ本書を執筆することになったのか? 直接の動機は,この数年,遺言状無効確認訴訟において,被告あるいは原告側から死亡した患者について生前に認知症に罹患していたのか否か,遺言状作成時に意思能力や判断能力は保たれていたのか否か,などを争点とする意見書あるいは鑑定書の依頼が持ち込まれ,訴訟資料などを熟読する機会にしばしば恵まれたことによります.かなり膨大な訴訟資料に目を通してみますと,法律家あるいは法曹界の論理は我々医学界のそれと共通する部分もあれば,かなり乖離した思考もあるものだなと感心したものでした.医療と関連した法律問題もなかなか興味深いものだと感じました.そこで長年認知症診療に関わってきた割には認知症に関連する法律問題に無関心であったことから,医事法について書かれた書籍を購入しほぼ全てを読破した結果,これは認知症の現場に即した法制度・法律問題について自分自身でまとまった勉強が必要であろう,そのためには書籍の形で勉強した結果をまとめてみよう,と考えた末に本書が誕生したわけです.
認知症の法的問題に関する規制をみると,「認知症に特有な問題」と考えるよりも「意思能力を欠く状態の問題」として取り扱われることが通常とされているようです.ですから認知症に特化した法律記載は少ないといえます.しかしながら認知症診療の現場にて活動していますと,「意思能力を欠く状態の問題」だけでは解決できない問題が山積しているように思えます.誤解を恐れずにあえて述べるならば,医事法などを専門とする法律家は認知症診療の現場を知らないままに観念的な法律論を振り回している印象を拭い去れないのです.認知症の病名告知問題はその際たるものだと思います.著者は,今回本書を書き下す際に巻末に掲載した参考書籍を熟読しましたが,いずれの書籍も法律家の立場からの解説書であり,認知症診療を標的にしかつ臨床医を読者層とした書籍はみあたりませんでした.そこで本書は,認知症診療に携わる臨床医がその現場で出会う可能性のある事柄,あるいはすでに出会ったことで苦慮している事柄,それは著者がしばしば経験することでもあるのですが,それら実臨床で経験するであろう事柄について,医師の立場からみた法制度・法律問題についての解説を目指しています.もちろん著者は法律の専門家ではありませんし,今回の書籍を執筆する前まで法律書を読んだこともほとんどありませんでした.ですから法律書の記述を誤って解釈する可能性も排除できないことから,本書を執筆する際,法解釈に関する記述は少なくとも3冊以上の参考書籍の内容を吟味し,全てに記載されているあるいは同一の解釈がなされている箇所を参考にして執筆をするように心がけました.それでも法律家からみると誤った解釈あるいは記述があるかもしれません.その折にはご指摘を頂くとともに本書の性質に鑑みご海容を賜れば幸いです.
2020年9月
著 者
目 次
CHAPTER 1 成年後見制度・日常生活自立支援事業
成年後見制度とは何か
任意後見制度を理解する
任意後見制度のメリットとデメリット
成年後見制度を理解する
認知症診療でなぜ成年後見制度が必要なのか
わが国における成年後見制度の利用実態
成年後見人等ができること,できないこと
後見に審判されると不都合なことも多い
金融機関における代理人制度
成年後見監督人・成年後見制度支援信託
成年後見人等による不正の状況
成年後見の審判開始のための診断書作成を依頼されたときの対応
診断書作成の手順と注意点
CHAPTER 2 身寄りがない人に対する医療および医療行為
診療拒否に関する法的な問題
2019年に通知された応招義務の新しい法的解釈
身寄りがない人(認知症患者)が受診してくるケースとは
成年後見制度を利用しているか否かを確認する
医療機関は成年後見人であるかどうかを必ず確認する
認知症に進展しかつ成年後見制度を利用している身寄りがない患者への対応
認知症に進展しているが成年後見制度を利用していない身寄りがない患者への対応
身寄りがない人が手術などを必要とする際,どう対応したらよいか
身寄りがない人の埋葬などはどうしたらよいか
CHAPTER 3 家族信託
家族信託とはなにか
家族信託の仕組み
家族信託と成年後見制度の違い
認知症診療における家族信託の位置づけ
家族信託のメリットとデメリット
認知症診療で家族信託を勧める場合
CHAPTER 4 認知症と消費者被害
最近の高齢者における消費者被害の実態
消費者被害の実例
クーリングオフ制度を利用する
認知症患者で消費者被害を予防する実際の手立て
訪問販売や悪徳商法に騙された後の患者への対応
CHAPTER 5 自立支援医療制度・精神障害者保健福祉手帳
自立支援医療制度
精神障害者保健福祉手帳
CHAPTER 6 犯罪行為(窃盗・万引き)
わが国における高齢者犯罪の概観
高齢者にみられる窃盗の特徴
高齢者の万引きの類型について
高齢者の万引きに対する予防策とその処遇
CHAPTER 7 認知症高齢者と虐待
高齢者虐待の定義
高齢者虐待の現況
高齢者虐待における問題点・課題
診察室で虐待を発見することは難しい!
虐待が疑われる事例をみつけたときの対応
虐待が疑われる認知症患者を診察したときの実際の対応
CHAPTER 8 認知症患者と身体拘束
身体拘束の実態
身体拘束を行ってもよい要件とは
法的視点からみた身体拘束の是非
身体拘束の違法性と妥当性
病院・施設内での転倒や転落事故に対する法的責任
臨床の現場で身体拘束を本当にゼロにできるのか
CHAPTER 9 道路交通法(運転免許)
道路交通法の歴史的変遷
取消しを受けた免許証の再取得は可能か
交通(自動車)事故を起こした場合の法的責任
通院患者が認知症であると判明しているときに医師はどう対応したらよいか
診断書作成時の診断が誤っていたことが後に判明したときの医師の法的責任
認知症患者を認知症ではないと診断した後に患者が事故を起こしたときの法的責任
運転に関連する診断書作成の依頼を拒否したときの法的責任
認知症患者が交通事故を起こしたとき,自動車保険の補償対象になるのか
CHAPTER 10 認知症と個人情報保護法(含カルテ開示)
知っておきたいカルテ開示に関する知識
医療の現場で個人情報保護法を濫用する医療機関が存在する
医師が知っておくべき個人情報保護法
診療情報の提供等に関する指針について
認知症患者のカルテ開示を求められた場合
カルテを改ざんしそのカルテを開示した場合
CHAPTER 11 遺言・相続に関わる係争
わが国の医事関係訴訟の現況と特徴
認知症と遺言能力
遺産分割事件あるいは遺産紛争はどのくらいあるのか
遺言状の種類と問題点
遺言無効確認請求訴訟
訴訟に関連して鑑定書,意見書の作成を依頼された場合
成年後見の審判開始のための診断書作成を依頼された場合
成年後見の審判開始のための診断書作成を断ることはできるか
家族によるカルテ開示を求められた際の対応
CHAPTER 12 末期ならびに終末期医療をめぐる法的問題
リビングウィルと事前指示書はどう違うのか
認知症が進行し経口摂取が不可能になったときの栄養の選択をどう考えるか
誤嚥あるいは窒息事故が起きた際の法的問題
CHAPTER 13 認知症診療における病名告知の法的問題
病名告知に関する法的根拠
説明義務が免除される場合
現場における病名告知の困難さ
病名告知をする際の責任の重さ
実際の現場での病名告知の実態
病名を告知しなくても認知症診療では支障にならないこともある
CHAPTER 14 法律問題に関するQ&A
Q1 医師と患者との法的関係はどう解釈されるのでしょうか
Q2 医療行為における医師の行政処分について教えてください
Q3 医療訴訟における診療ガイドラインの法的意味づけはどうなっているのでしょうか
Q4 訪問診療を行っている認知症患者が在宅で死亡したときには,
死亡診断書あるいは死体検案書のどちらでしょうか
Q5 進行した認知症患者が精神科に入院するときの手続きを教えてください
Q6 アルツハイマー型認知症で症状が進行したとき,身体障害者手帳を取得することができますか
Q7 未認可の認知症治療(ある種のサプリメントなど)を行っている医療機関への
紹介希望に対して紹介義務はあるのでしょうか
Q8 認知症診療でインスリンを家族に注射させることが可能な法的根拠はあるのですか
Q9 日本語の通じない外国人が認知症の判断を求め受診してきました.この場合,診療を断ることができますか
Q10 医療の領域での個人情報を保護する法律にはどのようなものがあるのですか
Q11 患者の情報を他人にうっかり話してしまった場合,罪になりますか
Q12 認知症患者が受診を拒否し家族のみの通院によって処方をしているが違法でしょうか
Q13 家族に頼まれて認知症患者の診断書に事実と異なる記載をしたときの罪状はどのようになりますか
Q14 医師が民事責任を問われる場合としてはどのようなものがありますか
Q15 認知症診療で訴訟を起こす場合,本人以外に誰が原告になることができるのか
Q16 チーム医療における責任あるいは説明義務は誰にあるのか
Q17 成年後見制度と家族信託を併用することはできますか
Q18 認知症との病名告知に法的位置づけはあるのでしょうか
Q19 家族が認知症患者に代わり介護サービス契約を結ぶことは合法なのか
Q20 息子が認知症に罹患している母親の預貯金を無断で引き出し
自分たち夫婦の生活費に当て患者の面倒をみないのですが,どう対応したらよいでしょうか
Q21 運転免許に関連した診断書作成を依頼されたとき自身で作成しなければなりませんか
Q22 認知症患者が自動車事故を起こしたときの責任はどうなるのでしょうか
Q23 認知症患者から医療行為について同意を得る際の法的問題を教えてください
Q24 手術同意書の法的な位置づけを教えてください.これで一切の免責になるのでしょうか
Q25 認知症が進行し判断能力がないと判断される患者が手術を必要としていますが,
手術の同意はどうしたらよいでしょうか
Q26 認知症患者が徘徊によって他人の所有物を壊した場合,その責任は誰が負うのか
Q27 認知症患者の暴力行為に対する法的な対応は
Q28 病院内で認知症患者になんらかのけがを負わせた場合の法的責任はどうなっているのでしょうか
Q29 介護施設で入所認知症患者にけがを負わせた場合,介護施設はどのような責任を負うのでしょうか
Q30 入院している認知症患者が他の入院患者にけがを負わせた場合の法的責任はどうなりますか
Q31 介護拒否をする患者が病院内で転倒しけがを負った際の法的責任はどうなりますか
Q32 病院あるいは施設から無断外出し患者が事故に巻き込まれたときの法的責任はどうなりますか
Q33 入院前から転倒の既往が頻繁な患者が入院中に転倒しけがをしたときの責任はどうなりますか
Q34 認知症患者が病院あるいは介護施設の窓から転落しけがや死亡した場合の法的責任はどうなりますか
Q35 認知症患者が万引きを行った結果,警察から状況の照会があったときの対応はどうしたらよいでしょうか
Q36 窃盗を行った認知症患者の弁護士から患者の病歴照会があった場合の対応について教えてください
Q37 認知症患者が行方不明になり長期間生存の可否が不明です.
残された家族は患者の死亡をどのように取り扱ったらよいのでしょうか
Q38 認知症患者は遺言状を作成できますか,その遺言状は有効ですか
参考書籍
索 引
執筆者一覧
川畑信也 八千代病院愛知県認知症疾患診療センター長 著
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