本書の刊行にあたって
透析に関する書籍は医学書の中でも売れ筋の一つらしく,現時点でも結構な数の書籍が出版されています.一つには透析医療が大学の医学部や看護師の養成校であまり取り上げられておらず,一般の医療者にとって敷居の高い分野ということがあるのかもしれません.
透析に関する書籍の企画を中外医学社から提案された時,最初はこれだけの透析に関する書籍が出ているのに似たようなものを作っても意味はないのではないか,という否定的な考えでした.ただ中外医学社の担当者と打ち合わせをして色々調べていくうちにわかってきたのは,透析を取り扱った書籍は初心者向けの本やマニュアル本が多くを占め,また一方で学術的な本もある中で,臨床の現場で一通り透析を理解している透析医療者にとって,次のステップを踏み出すために役立つ透析の臨床に関する本がやや不足しているのではないか,ということでした.
そこで本書は「一歩先の透析医療」という多少仰々しいコンセプトを掲げ,一通り透析医療の基本を理解している医師,看護師,臨床工学技士などの透析の臨床家を対象に,実践に役に立つ内容を目指しました.現場における実践のための内容を中心としておりますが,それぞれの項目で,根拠や沿革,理論的背景について読めば,一通りの概要がわかる,というちょっと欲張りなものを目指しました.
執筆は透析医療の現場で最新の理論を踏まえて実際に臨床をされているエキスパートの先生方にお願いしました.大変お忙しい中,それぞれ難しいテーマをエビデンスに基づいてわかりやすい内容に仕上げていただいたことに心より御礼申し上げます.手前味噌ながら大変ユニークな内容の本になったと自負しております.本書が透析の臨床に携わる医療者の問題解決につながればこれに勝る喜びはありません.
最後に,本書の企画から完成に至るまで,熱心に編集作業をしていただきました上岡里織氏,稲垣義夫氏をはじめ中外医学社の方々に深謝申し上げます.
2020年9月
山 川 智 之