はじめに
本書は『ERで闘うためのクスリの使い方』の続編です.前書は「クスリ」と銘打ってあるものの,薬に留まらない異例の内容で,お陰様で好評を得ました.本書も「手技」と銘打ってあるものの,内容は手技に留まらず,ERで闘うための知識が随所に散りばめられています.
本書の執筆陣は,救急・集中治療の現場で日々修羅場を潜り抜けている猛者たちです.猛者たちの技を,猛者たちの視点で捉えられるように,各著者にできるだけ自由な記載をお願いしました.果たして返ってきた原稿は素晴らしいものでした.編集をしながら原稿を読みふけってしまったことを思い出します.救急・集中治療の現場では,どんな知識よりも静脈路確保のひとつ,ドレナージのひとつが患者の命を救うということがあります.手技というのは理屈ではない部分があり,これは訓練を積むしかありません.本書では,猛者たちの思いの詰まった文章により,手技の訓練のコツを身に付けることができるように作られています.これから手技を学ぶ初期研修医,ERで働き始めたスタッフはもちろん,指導医クラスにも,名人のコツを学ぶために役立つ書であることを確信しております.また手技の本でありながら症例を盛り込み,症例ベースで手技の具体的なイメージが湧きやすいようにしました.症例報告集としても読み応えがあります.
本書の使い方としては,臨床の現場で即役立つのはもちろんですが,普段からパラパラ眺めることをお勧めします.「俺流Tips」は各手技の本質を説明しており,覚えておけば猛者たちと同じ目線で手技に挑むことができるでしょう.また本書はマニュアル本ではありますが,マニュアルから少しはずれた事態にも対応できるよう,いたずらにマニュアル的にはなっていません.随所に専門家の深い記述がなされています.文体は教科書的に決まりきったものよりも,執筆者が経験する実際の臨床を出すように心がけ,文章には手を入れないようにしました.読者の皆様に,執筆者の熱い姿勢を感じてほしかったからです.これは前書『ERで闘うためのクスリの使い方』と同じ,「ERで闘うシリーズ」のポリシーでもあります.なお,本手技の一部はCareNetTV(https://carenetv.carenet.com/)から動画サイト「ERで闘うための手技」として2020年9月から配信されています.ぜひこちらも併せてご利用ください.
本書を上梓できたのは,ひとえに優れた原稿を執筆頂いた著者の先生方のご協力あってのものです.新型コロナウイルス感染症対応で大変な中,本邦の医学教育にご尽力いただき心からお礼を申し上げます.また本書のアイデアをくださり,執筆著者との連絡調整,校閲をしてくださった中外医学社の五月女謙一さん,笹形佑子さんに感謝いたします.
本書がER診療の底上げとなり,深く愛される著書となることを願っています.
2020年7月23日
埼玉医科大学総合医療センター救急科 久村正樹