前書き
2017 年に抗菌薬適正使用支援プログラム実践のためのガイダンスが発表されました.その翌年に,新たに抗菌薬適正使用支援加算が算定されることとなり,ようやくinfection control team(ICT)とantimicrobial stewardship team(AST)のすみわけもなされました.これまでは,感染症内科が常設されていない日本では,どちらかというと感染制御の充実が先行し,AS プログラムに基づく活動は抗菌薬治療に興味を持っている先生がおられる一部の施設では積極的でしたが,どの施設も一定のレベルとは言えませんでした.
私は抗菌薬適正使用に関する本を何冊か編集してきましたが,今回は「現場で活用できる」を第一目標にして本誌を作成しました.本書の読者の対象として,もちろんAS チームの中心的メンバーにも読んでいただきたいのですが,これからチームに加わる,また加わりたいと希望している先生の立場にたち,日頃疑問に思っておられるであろうことへの回答(秘伝?)を,この領域のトップクラスの先生方に解説いただく形式をとらせていただきました.そのため教科書のように全ての必須項目をカバーしているわけではありません.どちらかと言えばトピックス的な項目の集まり,「いいところ取り」のような本になったと思います.
感染に関与するチーム医療の理想形は,経験ある医師がマネジメントをしながら,看護師がICT の,薬剤師または若手医師がAST の実質的なリーダーとなり,運営されることと考えています.そのためには専従者によるAS 活動が不可欠です.しかし業務時間内において費やせる時間をあらわすフルタイム当量 (full-time equivalent)からの評価では未だその動きは明確でないように感じます.今後AS 活動が行いやすい環境作りも必要と考えますが,まずは読者の皆様自体が実力をつけることが先決です.本書が私の意図した如く,現場で通用し,介入した際に主治医をうならせる説明ができる医師,薬剤師輩出の一助になれば幸いです.
2020 年4 月
竹末芳生