序 文
私が肺高血圧症を専門としてから15年以上が経過したが,幸運なことに,この15年間に肺高血圧は循環器領域で最も大きな進歩を遂げた分野と言ってよいほどの劇的な進歩があった.私自身もその進歩を強く肌で感じながら診療に取り組んできたわけであるが,そろそろどこかで一度現在の肺高血圧症診療について整理したいと考えていた.もちろん,最新のガイドラインが現在の肺高血圧症診療の基本となるものであることは言うまでもないが,ガイドラインは基本的にエビデンスに基づいた記載が求められること,さらには医療訴訟などの際の資料として使用される機会もあることなどから,まだ論文発表にまで至っていない最先端の内容や,専門家の間では共通認識になってはいてもエビデンスレベルが低いものなどについては,どうしても踏み込みきれない内容となってしまいがちである.
このような中で,本書「肺高血圧症診療ハンドブック」編集の話を頂いたわけであるが,編集に当たり,忙しい日常臨床の間に短時間で正しい診断・治療方針を立てるために役立つものとすることを第一とする一方で,ガイドラインにも記載されていないような最先端の内容や,専門家のコンセンサスについても盛り込んだ内容とすることを目指した.また,著者が多くなると内容が細切れになり統一性がなくなるばかりか,専門医であるがゆえにもっているこだわりの部分について,著者間で時として矛盾しているように思える記述も出てきてしまうのではないかと考えた.そこで本書は,肺高血圧症診療の歴史,WHOグループ別の診断・治療指針,将来展望などについて,それぞれの分野の真の専門医に,原則1人1章と,かなりまとまった分量の解説をして頂いた.また,その際,ガイドラインでは踏み込めなかった部分にも,著者自身のこだわりを含めて踏み込んで頂く内容とした.肺動脈性肺高血圧症の章を私自身が担当したことについては私自身のこだわりということでご容赦頂きたいが,私以外が担当した章については,ガイドライン作成の中心的立場を担った先生の多くに快く執筆を承諾頂くことができ,私自身が読みたい一冊となったものと自負している.「ハンドブック」というタイトル通り,研修医,レジデントの臨床の現場に役立つものとなることを願っているとともに,肺高血圧を専門としている先生方にも一読して頂く価値のあるものと考えている.
2020年1月
波多野 将