序
目指すは甘く実った赤リンゴではない.
未熟で酸っぱくとも明日への希望へ満ち溢れた青りんごの精神です.
安藤忠雄
本書は,集中治療医を志す若手医師だけでなく,急性期の輸液・循環管理に携わるすべての医師に向けて書きました.新しいエビデンスが次々と乱立していく現在,それらに振り回されることなくそれらを使いこなすことができるようになることを本書は目指しています.そのためには,根っこである循環生理をしっかり理解することが大切です.
ICUでは様々なモニターが装着されています.モニターの数値は安心感を与えてくれます.しかし一方で,いたづらにそれらの値に振り回されてしまうということにも陥りがちです.どういう時に,どういうモニターが有効で,どういう時にエラーが出るのか,モニターの原理から理解する必要があります.モニターの数値だけを見ていませんか? モニターの声に耳を傾けてみましょう.そして,治すのはモニターの数値ではなく患者です.本書で循環生理から理解した暁には,急性期の循環輸液管理の理解が深まり,明日からの臨床でのみえる景色が変わることでしょう.
本書の執筆を行ったのはちょうど卒後10年目の時分でした.私の尊敬する指導医の言葉に,「卒後10年までは自己研鑽,10年経ったら社会に還元する方法を考えよ」というものがあります.たかだか卒後10年というまだまだ未熟な小生が,いっちょまえに本を出すということは大変恐れ多くはありますが,未熟であるからこそ初学者にも寄り添える一面があると信じ,本書を出版させていただきました.そして何年経っても「未熟で酸っぱくとも明日への希望へ満ち溢れた青りんごの精神」を持ち続けようと思います.熟れたりんごは食べられるか落ちるだけ.人生最後まで青く!
本書を通じ「輸液力」を高め,読者の皆様が自信を持って急性期の循環管理が行えるようになることを願っています.
また,私を集中治療の世界に導いてくださった飯塚病院時代の指導医である尾田琢也先生,同じく飯塚時代からことあるごとに相談に乗ってくださった“ストロング” 吉野俊平先生,集中治療(人生?)の師匠である神戸市立医療センター中央市民病院の瀬尾龍太郎先生,循環管理のカリスマ 下薗崇宏先生,いつも暖かく見守ってくださる美馬裕之先生,植田のアニキにこの場を借りて感謝を申し上げます.また,日々切磋琢磨している戦友である歴代神戸集中治療フェローのみんなにも.そして常に私の前を走り続ける循環器内科医である実兄,川上将司にも.本書の企画,編集において中外医学社の宮崎雅弘さま,沖田英治さまには大変お世話になりました.お礼申し上げます.
2019年,初夏の潮香る神戸,港島にて
川上大裕