プロローグ
私が研修医であった1980年当時は,不整脈の治療といっても,ジギタリス,アミサリン,リドカイン静注,そしてキニジンより安全に使用できる経口抗不整脈薬としてジソピラミドが登場,ペースメーカが臨床応用されて間もない頃でした.その後,不整脈学は目覚ましい進歩を成し遂げ,現在に至っています.ペースメーカは,生理学的ペーシング,遠隔モニター,リードレスペースメーカがあります.致死性頻脈性不整脈には植込み型除細動器(ICD),両心室ペーシング付植込み除細動(CRT-D),皮下植込み型ICDが利用可能です.頻脈性不整脈には,カテーテルアブレーションが発作性上室頻拍,心房粗動のみならず,心房細動や心室頻拍・細動に対する治療として選択可能となりました.これらの進歩は驚異的ですが,研修医や若い医師にとっては学ぶべきことが膨大となり,最適な治療選択が複雑になってきています.そこで今回,40年近く不整脈の進歩を見届けてきた私の経験を生かして,研修医や若い医師が不整脈治療を理解しやすいように本書を企画しました.
第1章「不整脈の見かた」では,不整脈治療を行う際に必要な基礎的知識が学べるようにしました.また,研修医からの疑問に答える形で具体的に解説するコーナーも設けました.
第2章「不整脈治療の考えかた」では,各不整脈に最適な治療戦略やコツ,注意点などを過度に専門的にならず初心者に理解されやすいように配慮して解説しました.現時点でも議論がある部分はディベート形式で,最新の治療はトピックとしてまとめました.
第3章「不整脈治療の実践」では,研修医や不整脈が苦手な若手医師が現場で困らないように知識と治療の考えかたをまとめてマニュアル化し,実践に役立つような企画にしました.
最後に,本書が真に研修医や不整脈が苦手医師にとって役立つものになっていけば幸甚です.
2019年7月
宇部興産中央病院 理事長・院長
山口大学医学部 名誉教授
清水昭彦