はじめに
私たち腎臓病の診療に携わっている医療スタッフは,患者さん・家族と連携して患者さんが末期腎不全透析療法に移行しないようにと努力しています.しかし,毎年約4万人が新規に透析導入され,現在わが国では33万人を超える方が透析療法を受けておられます.その大半の方は血液透析を導入されていますが,ほかは腹膜透析や腹膜透析と血液透析のハイブリッド透析療法がおこなわれています.わが国には現在4,000を超える透析施設があり,患者さんの住居や職場から比較的近い場所で透析療法を受けることができています.
わが国の血液透析の予後・生存率は,ヨーロッパやアメリカのそれに比べ有意に良好であるとされています.その理由についてはよくわからないのですが,日本人の寿命の長さやきめ細かい透析医療,良好な栄養状態,薬剤や食事による貧血や高リン血症の改善,適切な運動指導,透析液の水質管理,適切な透析膜の使用などが関わっているといわれています.透析スタッフには,医師,看護師(透析ナース),臨床工学技士,管理栄養士,薬剤師,運動トレーナー,理学療法士,放射線技師,看護補助者,医療ソーシャルワーカー(MSW),医療事務員などが入り,一人一人の患者さんについて丁寧に透析医療を行っています.まさに,透析医療チームの真摯な取り組みにより国際的にみても有数の長寿透析国になっています.これは世界に誇るべき事実だと思います.しかし,透析にかかる医療費が高額になっていることも事実であり,透析スタッフは無駄を減らす努力を怠らず患者さん・家族のご理解とご協力を得ることが大切です.
これまで,多くの先達が透析療法に関する教科書や解説書を上梓し私たち透析医療スタッフの学びの向上に貢献していただきました.そんななかで,今回「血液透析療法の理論と実際」をあえて刊行する意図は,?患者さんが透析室に入室し透析を受け退室するまでの過程″において大変素晴らしい進歩を遂げている透析設備・技術,水質管理,透析液成分,バスキュラー(シャント)の作成と管理,薬物療法,透析合併症の管理,栄養管理,運動指導,心のケアなどについてあらためて整理することにあります.まず「わが国の透析療法の現状」にふれ,「透析療法中止の最近の考え方・国際比較」を今後の課題として取り上げました.また,腎移植の最近のトピックスと透析療法における各職種の果たす役割をMEMOとして簡潔にまとめていただきました.どの項目にも最新の情報が網羅されていますので,読み進めていただき透析療法の新しい解説書として活用していただきたいと願っています.本書が,皆さまの日常診療のお役に立てれば望外の喜びです.
お忙しいなか大変分かりやすくご執筆いただきました透析医療スタッフの皆さまに心からお礼申し上げます.しかし,なかには物足りない記載もあろうかと思いますので,読者の皆さんの忌憚のないご意見をお待ちしています.最後に本書の出版にご協力いただきました中外医学社の皆さまに厚くお礼申し上げます.
2019年 東京都庁を眺めつつ
富野康日己