4版の序
国民病ともされる慢性腎臓病患者に接する機会は,日常臨床の現場で数多く,どのような分野においても医療に従事する限り腎機能低下患者に薬剤を投与する機会は少なくない.患者の腎機能に応じて,適切に薬剤を使用することは,診療において非常に重要である.更に,安全に医療を遂行するためには,薬剤の副作用としての腎機能障害に関しても,熟知しておく必要がある.これまで「腎機能低下時の薬剤ポケットマニュアル」は,このような目的で多くの皆様にご活用を頂き,高くご評価頂いてきた.今回,次々に出てくる新薬に関する記載を加え,また皆様にご要望を伺い加筆・修正を行って,改訂第4版を上梓することができた.
ご多忙の中,ご執筆を頂いた各病院の執筆者の皆様にこの場を借りて深く感謝申し上げるとともに,本書の作成に当たり御指導・御鞭撻を頂いた中外医学社企画部の桂彰吾氏にも心から感謝申し上げる.
本書は,日常臨床で忙しい皆様でも素早くご活躍頂けるよう,実用性と使いやすさに特に留意している.本書が,皆様の日々の診療のお役に立てることを,祈念している.
2019年5月
田中哲洋,南学正臣
初版の序
日本では国民の約1/10が慢性腎臓病(CKD)であり,末期腎不全のため透析を余儀なくされる患者数も増加する一方である.また,CKD患者では心血管系合併症を起こすことが多く,その患者管理の重要性が近年ことに強調されるようになってきている.このため,臨床の現場において,腎機能が低下している患者を診察する機会は非常に多くなっているが,そのような場合に問題となるのが薬物の使い方である.
CKD患者は様々な合併症を伴うことも多く,多数の薬物投与が必要なケースも多いが,不適切な薬物投与は,腎機能低下を促進し,また排泄低下に伴う血中濃度の上昇により重篤な副作用を引き起こす.腎機能の低下の程度に応じて,適切に薬物の使用量と投与間隔を調節することは,安全にかつ最大の効果を得るために必須であるが,忙しい日常臨床の場において分厚い専門書を紐解く時間は臨床医には与えられていない.
本書は,現場の医師たちからの,手元で簡単に腎機能低下患者における正しい薬物療法が分かるようなものがあれば,という要望に応えるべく企画されたものである.執筆は最前線で患者の診療にあたっている東大病院,虎の門病院,および東京日立病院の腎臓内科医師にお願いし,多忙な日常業務の中,非常に質が高く,かつ分かりやすい原稿を執筆頂いた.また,より理解を深めたい方々のために,腎機能低下における薬物動態の薬理学的な基礎知識について,東大病院薬剤部の先生方にご寄稿頂いた.さらに,本書が仕上がるまでには,中外医学社企画部岩松宏典氏の,多大なご支援と叱咤激励が欠かせなかった.この場を借りて,感謝の意を表するものである.
本書は,各先生方の多大な尽力により,非常に実用的なものに仕上がっている.ぜひ,皆様の臨床のお手元で,ご活用頂ければ幸甚である.
2009年4月
南学正臣