はじめに
本書はエキスパートにより書かれた,ERを生き抜くための診療マニュアルであると同時に,優れた症例報告集である.最初に中外医学社の五月女さんから「ER診療をクスリで横断的に切った本が作りたい」とのお話を頂いたとき,面白い企画だと飛びついた.ところがいざ作り始めてみるとクスリで切れない症例が頻出し,図らずしてクスリを使うべき症例とそうでない症例を理解することができる本となったが,これは嬉しい誤算であった.また症例は各分野のエキスパートが遭遇の頻度が高いものを選りすぐっており,まさに冒頭に述べたような書となった塩梅である.
ERで遭遇する症例は無限のように見えるが,それでも遭遇しやすい幹となる症例は存在し,これらの対応を抑えておけばあとは応用である.本書は幹となる症例の対応が述べられており,初期研修医,ERで働き始めたスタッフに恰好の書である.どこからでもいい.まずは読み始めてみてほしい.本書の使い方としては,臨床の現場で即役立つのはもちろんだが,普段からパラパラ眺めることをお勧めする.いざという時に迅速に,適切に,そして確実に役に立つことは間違いない.本書はマニュアル本ではあるが,マニュアルから少しはずれた事態にも対応できるよう,いたずらにマニュアル的にはなっておらず,随所に専門家の深い記述がなされている.また教科書的に決まりきったことよりも,著者が経験する実際の臨床を出している.ERではこのようなopinionが現場の患者を救うことが多いためである.
本書を上梓できたのは,ひとえに優れた原稿を執筆頂いた著者の先生方のご協力あってのものである.心からお礼を申し上げたい.また本書のアイデアをくださり,執筆著者との連絡調整,校閲をしてくださった中外医学社の五月女謙一さん,そして上村裕也さんに感謝する.
本書がER診療の底上げとなり,深く愛される著書となることを願っています.
2019年4月23日
久村正樹