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書籍詳細

EBMによる白血病の診断と治療

EBMによる白血病の診断と治療

大野竜三 著

B5判 154頁

定価5,280円(本体4,800円 + 税)

ISBN978-4-498-12500-1

1999年11月発行

在庫なし

進歩著しい白血病の診断と治療をEvidence based medicineに基づいて解説したものである.白血病の概念・定義・分類・発生機序など診療に必要とされる基本的知識も分かり易く解説しているが,本書の目的はその臨床,特に治療法についての最新の情報を提供することにあり,種々の治療法の意義・役割・方法を仔細に解説した.今日における本症の全貌を知ることのできる書として専門家のみならず特に白血病を専門としない臨床医の方々に読んでいただきたい.

 白血病をめぐる学問の進歩はまことに目覚ましく,遺伝子を中心とする基礎分野のみならず,臨床面においてもまさに日進月歩である.1992年に中外医学社の「血液学ハイライト」シリーズで『白血病の診断,治療』の初版を上梓し,2年後に改訂第2版を出版したが,この間にも新しい知見が次々と得られ,その一部改訂のみではとても読者を満足させえないことは明白となった.そこで,今回は新しく『EBMによる白血病の診断と治療』として書き改めた.
 この間,筆者自身も名古屋大学より浜松医科大学に移籍したし,日本の社会では戦後右肩上がりに続いてきた経済が大きな破綻をきたし,北海道拓殖銀行,長期信用銀行や山一証券の破綻で代表されるような思いもかけない局面が展開した.政治面でもいわゆる55年体制として営々と続いた自民党政権が崩壊し,細川連立内閣が発足したと思ったら8ヶ月の短命で終わり,代わった羽田政権の後には社会党と自民党との連立による村山内閣が誕生,その後は自民党の橋本内閣,小淵内閣と日本の最高指導者は目まぐるしく変わっている.
 また,一時は1ドル80円まで上昇していた日本円はなんと147円まで値下がりし,現在は110円前後を上下し,日本経済の混迷をそのまま反映しており,好むと好まざるに係わらず日本経済はグローバルな市場原理の中で大きく揺れ動いている.
 これらは,全て従来のいわゆる日本型の価値観,例えば終身雇用制度,年功序列型賃金体系,官僚主導型の護送船団方式,官僚の天下り,男性中心型社会,接待,総会屋などがグローバルな観点から見ると時代遅れになり,特にグローバルな市場原理で動く経済面では日本型の価値観がもろに影響を受けて崩壊の危機に瀕していると言える.
 医学も決して例外ではなく,グローバルな観点がますます必要とされるようになった.日・欧・米の三極による薬品開発のハーモナイゼーション(ICH)が発足し,薬品の欧米での臨床開発データが日本でも利用可能になった.さらに欧米では製薬メーカー間の我々の理解を越えるような大型合併が相次ぎ,日本のメーカーとの間に開発力に大きな差がつくことが予想される.したがって将来的には新薬はすべてこれらの欧米の大メーカーが開発し,日本では販売するだけという状況も十分予想される.事実,世界の人口の大部分をしめる発展途上国では,既にこうなっている.また,ICHと同時に開始された臨床治験における改訂GCP(good clinical practice)はいわゆる国際規格のGCPであり,日本の臨床研究もグローバルな観点で行わざるを得ないことを示している.
 さらに,あっと言う間に普及したインターネットで代表されるこの情報社会にあっては,日本の医学会もこれまでのような学閥,長老支配,非民主的,閉鎖的な日本型の価値観に固執しておれば,必ず世界からさらに取り残されることを意味している.
 幸い,血液学の分野では,この領域で最もインパクトファクターの高いBLOODの論文発表者は,日本人が米国人についで第二位を占めるようになってきた.臨床面においても,Japan Adult Leukemia Study Group (JALSG)は,1998年に10周年を迎え,当初の14施設から,北は北海道から南は鹿児島まで63施設,160病院からなる全国的な大グループに成長し,急性骨髄性白血病,急性前骨髄球性白血病や慢性骨髄性白血病の治療において,国際的一流誌にその成績が報告され国際的にも認知された多施設共同研究グループとなった.
 最近,evidence-based medicineの重要性が叫ばれている.JALSGの活躍は,これまでほとんど全て欧米から発信されてきたエビデンスが,ようやく日本からも出されるようになったことを意味している.JALSGから発表されるエビデンスは,日本人患者を日本人医師が日本の医療システムの中で治療して得た成績であり,日本人患者にとっては最も信頼できるエビデンスと言える.それでもJALSGがカバーする患者数は,日本で発生する成人白血病の約30%にすぎず,医科系大学病院の5割近くは未だJALSGを含むどんな全国的な共同研究グループに参加していない.患者さんの協力を得ながら自らが作ったエビデンスに基づき最良の医療を患者さんに提供するのが,特に大学病院で働く医学者にとって必要なことではないだろうか.
 我々,白血病の研究者にとって最も魅力的かつ有利なことは,患者さんのインフォームド・コンセントが得られれば,白血病細胞という腫瘍細胞が簡単に手に入ることである.したがってこれを利用して,白血病の研究者はヒト腫瘍の中で最先端の研究を遂行することができたし,これからも続くであろうと思われる.そして最先端の研究から得られる成果は治療法の改善や開発につながり,治癒率の増加に貢献するものと思われる.
 白血病は薬物で治癒させうることのできた最初のがんとなった.そして近い将来人類が制圧しうる最初のがんとなるであろうと期待される.また近年の急性前骨髄球性白血病に対するレチノイン酸による分化誘導療法の驚くべき有効性は,分化誘導療法がヒトがんにおいても確実に効果を示すことを始めて証明すると共に,治癒率の大幅な向上をもたらしたのみならず,副作用が少なく,合併症も少ないために,医療費も削減することができるという画期的な治療となった.このような画期的な治療法の開発は,是非今後も目指していかなければならない.
 人間社会の流転は激しくても科学の真理は一つであり,白血病制圧に向けての進歩は着実に進みつつあることは確かである.私が医者になり白血病治療に取り組んだ頃は,白血病が治るとは夢にも思えなかった時代である.私の目標は小児の急性リンパ性白血病では既に達成されているように,成人白血病の5割以上を治すことであるが,例えば急性前骨髄球性白血病では,ほぼ達成できたようである.
 本書は,以上のような観点から読んで頂けると幸いである.ただし白血病治療の専門家ではない読者にお願いしたいことは,白血病は治癒可能となったとは言え,常に最新の情報に精通した専門医により,時には治療関連死を誘発しかねない程の有害事象を伴う強力な治療を行うことによって始めて治癒が得られる疾患であることを知って欲しいことである.有害事象の少ないとされる分化誘導療法も例外ではなく,十分な知識と経験を積んだ専門医が行って始めて高い治癒率が得られる治療法である.患者の真の幸せのためには,治癒的治療のできる本物の専門施設へ患者を送って頂きたい.本書が本物の専門施設の選別に役立ってくれれば本望である.

1999年夏
大野 竜三

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目 次

I 白血病の定義と概念

II 白血病の種類と分類
 1 白血病の種類
 2 白血病の分類
 3 AMLおよびALLに対応する英語
 4 その他のFAB分類では分類できない白血病
 5 白血病と白血性・白血化の違い
 6 急性骨髄性白血病と急性非リンパ性白血病
 7 慢性骨髄性白血病と慢性顆粒球性白血病
 8 慢性骨髄性白血病と骨髄増殖性疾患群
 9 慢性リンパ性白血病と非ホジキンリンパ腫・小細胞型の白血化の相違
 10 慢性リンパ性白血病群
 11 骨髄異形成症候群
 12 成人T細胞白血病・リンパ腫
 13 類白血病反応(leukemoid reaction)

III 白血病の疫学

IV 白血病の初発症状と診断の進め方
 1 白血病を疑うきっかけとなる症状
 2 血球検査
 3 骨髄検査
 4 診断と病型分類のための特殊検査
 5 その他の検査
 6 白血病と診断したら
 
V 白血病の原因と発症機序
 1 白血病の原因としてのウイルス
 2 染色体異常とがん
 3 放射線と白血病
 4 抗がん薬投与後の二次発癌としての白血病
 5 がん遺伝子(がん関連遺伝子)と白血病
 6 がん抑制遺伝子と白血病
 7 白血病細胞の細胞起源とクローン性
 8 白血病細胞の増殖機構とサイトカイン
 
VI 白血病の治療理念
 1 Total cell killの治療理念
 2 治癒を得るための白血病治療法
 3 完全寛解導入が治癒を得るための必要条件である
 4 完全寛解導入率向上の工夫
 5 寛解後療法の重要性
 6 微量残存白血病細胞の検出
 7 完全寛解率向上と薬剤耐性
 8 寛解後療法は薬剤耐性白血病の治療である
 9 白血病の薬剤耐性におけるP糖蛋白の重要性
 10 薬剤耐性白血病の克服法
 11 耐性克服療法としての造血幹細胞移植療法
 12 耐性克服療法としての自家造血幹細胞移植療法
 13 形態学的完全寛解と分子的完全寛解
 14 白血病の細胞周期と多剤併用療法
 15 治癒を目指す治療モデル
 16 白血病に使用される主な薬物療法薬
 
VII 成人急性骨髄性白血病の治療
 1 成人急性骨髄性白血病(AML)の化学療法
 2 セット療法と個別化療法
 3 顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)や顆粒球/マクロファージコロニー
   刺激因子(GM-CSF)による化学療法効果の増強
 4 強力化学療法の施行可能時期
 5 初回寛解後療法としての造血幹細胞移植療法
 6 初回寛解期での造血幹細胞移植療法か化学療法の選択
 7 第二寛解期以降での造血幹細胞移植療法か化学療法の選択
 8 急性骨髄性白血病の予後因子とこれにしたがった治療の層別化
 9 成人急性骨髄性白血病の化学療法プロトコール

VIII 急性前骨髄球性白血病の分化誘導療法
 1 レチノイン酸による再発・難反応性急性前骨髄球性白血病の分化誘導療法
 2 レチノイン酸による初回治療急性前骨髄球性白血病の分化誘導療法
 3 レチノイン酸による完全寛解到達の機序
 4 レチノイン酸レセプターα遺伝子とPML遺伝子
 5 レチノイン酸の有害反応とレチノイン酸症候群
 6 分化誘導療法による医療費の軽減
 7 レチノイン酸により完全寛解導入後再発症例に対する新レチノイド
   Am80の再寛解導入療法
 8 レチノイン酸による分化誘導療法の教えるもの
 9 亜砒酸による急性前骨髄球性白血病の治療
 
IX 成人急性リンパ性白血病の化学療法
 1 小児急性リンパ性白血病と成人急性リンパ性白血病の相違
 2 成人急性リンパ性白血病の化学療法
 3 成人急性リンパ性白血病の造血幹細胞移植療法
 4 成人急性リンパ性白血病の第一寛解期での造血幹細胞移植療法か
   化学療法かの選択
 5 フランスグループによる成人急性リンパ性白血病の第一寛解期での
   骨髄移植療法か化学療法の前方向比較研究
 6 成人急性リンパ性白血病におけるドイツグループの化学療法の成績と
   国際骨髄移植登録症例とのmatched-pair analysisによる検討
 7 成人急性リンパ性白血病におけるJALSG-ALL87 studyの化学療法の
   成績と国際骨髄移植登録症例とのmatched-pair analysisによる検討
 8 成人急性リンパ性白血病の治療指針
 9 成人ALLの化学療法プロトコール
 
X 慢性骨髄性白血病の治療
 1 化学療法
 2 インターフェロン療法
 3 造血幹細胞移植療法(HSCT)
 4 厚生省白血病研究班における『慢性期慢性骨髄性白血病における最良の
   治療法選択に関する研究』プロトコールとフローチャート
 5 造血幹細胞移植療法後の再発例に対するドナーリンパ球輸注療法(DLI)
 6 移行期と急性転化期の治療
 
XI 慢性リンパ性白血病の治療

XII 成人T細胞白血病・リンパ腫の治療

XIII 白血病治療時の支持療法
 1 白血病における感染防御能低下の原因と発症しやすい感染症
 2 白血病における感染症と抗菌薬の開始時期
 3 白血病における感染症における抗真菌薬開始時期
 4 白血病化学療法後の好中球減少に伴う感染症治療における
   顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)の役割
 5 骨髄性白血病の化学療法後のG-CSF使用の留意点
 6 骨髄性白血病での骨髄移植療法後のG-CSFの効果
 7 G-CSFによるpriming効果
 8 リンパ性白血病化学療法後の好中球減少におけるG-CSFの役割
 9 白血病化学療法後の好中球減少に伴う感染症治療におけるマクロファージ
   コロニー刺激因子(M-CSF)の役割
 10 感染症予防のための無菌空気層流装置の必要性
 11 口腔内感染症の予防
 12 非吸収性抗菌薬の経口投与による消化管感染症予防と肛門周囲膿瘍の予防
 13 加熱食による感染症予防と生花の病室内持ち込み制限
 14 超音波ネブライザーによる呼吸器感染症の予防
 15 全身状態管理上の経静脈高カロリー輸液の重要性
 16 白血病治療施行時の出血対策
 17 白血病治療における輸血
 
XIV 白血病における病名告知とインフォームド・コンセント
 1 いわゆる『がん告知』問題 
 2 インフォームド・コンセント
 3 病名告知とインフォームド・コンセントの進め方

おわりに
文 献
索 引

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