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書籍詳細

さあ、医学研究をはじめよう!

さあ、医学研究をはじめよう!

北風政史 著

A5判 262頁

定価(本体4,400円 + 税)

ISBN978-4-498-04872-0

2019年03月発行

在庫あり

基礎研究と臨床研究からなる”医学研究”とは、そもそもどのようなものか。”臨床医学”と”実臨床”の違いとは何か、臨床データはどのように扱うべきか、などなど、”医学”を志す者に必要な医学研究の基本的な知識を解説。さらに臨床医学研究の進め方や実臨床への展開など、長年医学研究に携わってきた著者の豊富な経験を振り返りながら解説する実践的な医学研究の入門書。医学研究をする”本当の意味“がわかる一冊。

【書評】
書評者:山崎 悟(国立循環器病研究センター分子薬理部)



 本書のタイトルを見ると、一見、研究の世界における「ハウツー」本や入門書のように見えるが、本書はそのような類の本ではない。語り口は平易であるが、研究を行って行く上で実践的に必要と思わることが、著者の経験をベースに重厚に記述されている。そして、本書はさながら、著者の回顧録のような位置づけにさえみえる。このようなアプローチは、純文学小説(≒私小説)ではないが、自身が歩んできた道、経験してきたことを直裁に語ることこそが、実はこれから研究を行おうと考えている人に大いに役立つ可能性があることを示唆する。また、本書には、もう1つ特徴的なことがある。すなわち、国際政治学者であるヘンリー・キッシンジャーはかつて、「政府高官の地位を得ることによって、我々は政策決定のやり方を学ぶことができる。しかし政策を判断する能力は身につかない。高い地位に就いても、知的な能力が増すわけではない。高い地位を得る前に学んだことだけが、役に立つ」、という言及を行った。このことは研究の世界にも拡張できる概念であり、本著者においても、処女作にあたる「No reflow現象を斬る: その病態と治療(1999年、医学書院)」と今回の著書を比較すると、循環生理学に基礎を置くという執筆思考プロセスは一緒である。

 本書の構成は、概論として「医学における科学研究とは何か?」という著者の考え方を述べた後、大まかには「基礎研究」と「臨床研究」の2編に分けて、それぞれの研究を行って行く上で著者が必要と感じていることを記述する(詳細は、是非本書を読むことをお勧めする)。少しだけ補足すると、基礎研究編に関しては、X-Y-Z座標軸(ここでは、研究目的、研究室への入り方、研究ストラテジー)によるピン止め法は、様々な場面で応用が効くノウハウである。臨床研究編に関しては、自らのグループが率いて行ったJ-WIND研究を例に、前臨床研究に基づく試験デザイン、患者のエントリー体制、および各エンドポイントの統計解析などのノウハウが俊逸である。

 さて、それ以外に白眉なのは、論文作成に関することである。まず、査読というものが、充分研究のことを考える余裕がある状態(著者の言葉を借りると、ゆったりとした状態でコーヒーを飲みながら、という状態)で行われるものでは決してなく、本業に追われた余裕のない状態で行われるのが実際のところであるので、そのようなことを意識して論文を投稿すべきである、というのは示唆的である。また、論文のネーミングの話についても言及されている。近年、医学研究は要求されることが多くなり、それなりの人数で研究を進めていかないと、なかなか大きな仕事になっていかない。そうすると、筆頭著者およびボス的な立場で指導する者だけですべての責任を賄うことには無理があり、最近はcorresponding authorとlast authorを分ける傾向にあるようである(これを別の喩えでいうと、かつて劉邦が項羽を倒して「漢」という国を建国したときに、内政を司る蕭何、軍師・参謀である張良と、戦場の現場を指揮した韓信を「漢の三傑」として同列に扱った事に類似する。)。

 最後に、第V章の14項目「医療関係者が医学研究をする本当の意味」、この部分は、著者自身が「我々はなぜ本来的に研究をするのか?」という問いを立て、それに自ら回答する形をとっている。どのような回答をしているのかは本書に譲るが、実はこの部分こそが、著者が本書を通じて最も伝えたかったことなのではないか?と評者は考える。そして、読者に対してこう語りかけたかったのではないだろうか?「さあ、(私と伴に)医学研究をはじめよう!」と。

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緒言

「医師など医療関係者が医学を研究することは、工学者や数学者が工学や数学などの他分野を研究することに比べて特に重要です」と書くと、「なにをいうか、医学だけが学問ではないぞ。工学も数学も物理学も同じように大切なはずだ。医学は生命を扱うことから重要であるという理屈を否定するわけではないが、流体力学の研究の成果がないと飛行機が安全に飛ばないわけだから、生命の安全という観点からは、物理学や工学は医学に引けを取らないぞ。」というお叱りを、多くの方から受けることは必定です。分子生物学者や細菌学者が医学を研究することは、工学者や数学者が工学や数学など他分野の研究することと同等ですが、医療関係者による医学研究は、少し特殊だと思っています。なぜなら、医学研究は大学で基礎・臨床研究を行う研究者だけでなく、病院の勤務医はもちろん開業医にとっても、重要だからです。
では、なぜ研究自体が、医学研究者のみならず、医師などの実際に医療現場で働く医療関係者にとって大事なのでしょうか? それは、医学がそれ以外の分野に比べて未熟であることに起因すると私は思っています。さらに言い換えれば、医学・医療における科学の入口から出口に至る構造が、それ以外の学問の科学・実学構造と異なるからなのです。これは一体、どういうことなのでしょうか?
ここで、頭の体操です。例えばテレビについて考えてみます。電気物理を修得した物理学者(基礎科学)、材料力学、電子力学などを修めた工学者(応用科学)、テレビに必要な科学を具現する技術者(技術)の成果でもって、私たちエンドユーザー、つまりテレビの利用者・消費者に届けられます。テレビのエンドユーザーは、テレビをつくるために培われてきた詳しい物理学、工学など知らなくても、リモコンひとつでテレビの恩恵を被ることができます。
では、医学・医療はどうでしょうか? 例えば、私の専門の心臓病では、分子生物学者や生理学者(基礎医学)が、心臓の動きを規定するメカニズムを明らかにして、薬理学者(Translational Science)が、その研究成果から心不全治療薬を作り、臨床医学者(応用医学)が、その心不全治療薬が本当に心不全をよくするのかを臨床研究にて明らかにして、病院の勤務医や開業している医師、薬剤師、看護師など医療関係者が、その科学的研究成果を個別の患者さんに科学的に施す構図になっています。物理学・工学の世界と似たように見えるかもしれません。
でも大きく異なるのは、心不全治療薬であるβ遮断薬は、物理学・工学からのエンドプロダクトであるテレビと異なり、心不全を完全に治すことはできませんし、テレビのリモコンを使うように患者さんが自分の判断で安易に服用はできません。患者さんの状態、例えば、年齢、性別、薬剤の肝臓・腎臓などの代謝経路と患者さんの肝機能・腎機能の状態により、その薬の効き方は明らかに違ってきます。さらに、β遮断薬は徐脈や低血圧などの副作用が出てくることがあり得ますので、それとの兼ね合いによって使用する薬剤量を、医師などの医療関係者が科学的に決めなくてはいけません。また、詳細に患者さんの様子を観察した結果、β遮断薬が全く効果を発揮していないと医師が判断するなら、そもそもβ遮断薬を継続するべきかどうかを決めないといけません。
つまり、医学・医療においては、その成果物の真のエンドユーザーは患者さんではなく、医師などの医療関係者になっているのです。医学における薬剤や医療機器の開発者は、医学研究者であることは当然なのですが、そのエンドユーザーも医師などの医療関係者なのです。この点が、ほかの分野の科学構造と大きく異なる点です。
では、エンドユーザーである医師などの医療関係者が、エンドプロダクトである医療行為を決定する上で、必要なものは何でしょうか? 医学上の知識はもちろんです。そのために、医学生、薬学生、看護学生は山ほどの知識を暗記しなくてはいけません。そして数百問もある国家試験問題をその知識を駆使して正解しないと医師などの医療関係者にはなれません。でも、それだけでは、医師や看護師、薬剤師としては不十分です。というのは、患者さんの病態も多様で、薬剤も多様ですから、その複雑な医療現場で医療方針を決定する現場力は、「科学する力」からしか生まれてきません。本当に、この患者さんにβ遮断薬を続けなくてはいけないのか、投与量をさらに増加させる必要はないのか、ほかの薬剤との関係はどうなっているのかなどなど、科学的に多くの医学的判断をしなくてはいけません。
では、科学とはなにか? 科学とはA→Bを理論的に証明してそのメカニズムを究明することで、その積み重ねが科学の集大成となっています。そして、その科学する力を養うのが研究に他ならないのです。医学に携わる者が行う研究は、もちろん新しいものを発見して次の医学の発展に貢献することです。でも、医学研究のもっと大事な点は、医師などの医学関係者が、日常臨床を円滑に行うために、科学の方法論を知ることだと思います。これこそがすべての医学者が科学研究を行う理由だろうと思います。科学研究を知らない医師が、科学的に患者さんに対応することには限界があります。医師や看護師は、自分の勘や経験をガイドラインに織り込んで実臨床を行っているのですが、その勘や経験は、実は自分の中で科学的に臨床研究をすることにより熟成されていくわけで、そうでないと、経験や勘の独りよがりな利用は、平安時代の陰陽師と同じことになってしまいます。
私自身は、もともと循環器生理学研究を行い、その後、薬理学的研究、分子生物学的研究、ゲノム研究などの基礎研究を行い、また、臨床の場に移ってからは、臨床研究、大規模臨床研究、疫学研究、観察研究、ビッグデータ研究を行ってきました。その経験を生かして、本書で、どのように基礎研究を行えばいいのか、その手がかりはどこにあるのか、臨床研究に重要なものは何なのか、などについて語ってみたいと思います。できれば、医学を志す医学部志望の高校生、医学を勉学中の医学生、医学部を出て実臨床をある程度身につけた医師から、病院の医師、開業の先生方まで、また、薬剤師、看護師、臨床検査技師などの医療関係者の方々にとっても役に立つ書物であれば望外の幸せです。
子どものころ、夜店にならぶ屋台で、ワクワクしながら金魚すくいやヨーヨー釣りをしたように、医学研究の世界にお入りください。夜店の景品とは格段に差がある、ノーベル賞をはじめ多くの賞がたくさん用意されています。

2019年陽春
北風政史

追伸:実は、医学研究を行うさらに大切な意味があると思っています。それを本書の最後に書いてみたいと思います。

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目 次

I 概論
 1 医学における科学研究とは?
  1-1 なぜ研究をするのですか?
  1-2 研究とは何ですか?
  1-3 私たち医療関係者が医学研究をするわけ
  1-4 医学研究をする本当の理由は?
  1-5 私が医学研究を目指したわけ
  1-6 恩師との出会い

II 基礎研究編
 2 基礎医学研究の進め方
  2-1 いい論文をめざそう
  2-2 基礎研究に必要な10項目
  2-3 優れた基礎研究をするために
 3 基礎医学研究の実際─何をするのか?
  3-1 あなたは何を明らかにしたいのか
  3-2 私が明らかにしたかった心臓生理学とその研究
  3-3 私が明らかにしたかった心筋虚血とその研究
 4 さらなる研究の展開を求めて
  4-1 私が明らかにしたかった心筋再灌流障害とその研究
  4-2 心筋再灌流障害研究のさらなる発展
  4-3 虚血プレコンディショニングへの展開
  4-4 アデノシン─虚血プレコンディショニングからその次へ
 5 新しい研究手法─網羅的解析
 6 基礎研究の定石
  6-1 研究の目的はなにか、つまり何を明らかにしたいのか
  6-2 どのような特殊な方法論・実験系を持っているのか
  6-3 適切な指導者はいるのか
  6-4 研究資金・研究スペースはあるのか
  6-5 共同研究者はいるのか
  6-6 研究計画書はできているのか
  6-7 倫理委員会は通しているのか
  6-8 実験記録を残す準備はできているのか
  6-9 実験結果をレビューしてもらえる環境があるか
  6-10 論文を書くだけの英語力があるのか
 7 実際の基礎研究を進めるうえでの具体的なTIPS

III 臨床研究編
 8 臨床医学研究の進め方
  8-1 臨床研究とは何ですか?
  8-2 なぜ研究者が臨床研究をしなければならないのか?
  8-3 観察研究の意義とインフラストラクチャー
  8-4 観察研究から臨床試験へ
  8-5 臨床試験の意義とインフラストラクチャー
 9 私の行ってきた臨床研究の遍歴
  9-1 臨床研究を実際に始める前に
  9-2 臨床研究のヒント
  9-3 臨床研究のTIPS
  9-4 臨床研究の展開
 10 J-WINDへの道
  10-1 治験を手本にする-1
  10-2 治験を手本にする-2
  10-3 次にするべきこと
  10-4 J-WINDの成果
  10-5 J-WINDに続くもの
 11 J-WINDを超えてEARLIERへ
  11-1 治験とは何か
  11-2 私が愕然としたわけ
  11-3 EARLIER研究の始動

IV 基礎研究と臨床研究の融合
 12 新しいタイプの臨床研究は?
  12-1 J-WIND研究の反省
  12-2 基礎医学と臨床医学の往還
  12-3 ゲノムデータから基礎研究に戻りそこから臨床への展開
  12-4 カルテデータから基礎研究に戻りそこから臨床への展開
  12-5 臨床現場と基礎研究の往還の先は
 13 臨床研究から実臨床への道

V 医学研究の意義
 14 医療関係者が医学研究をする本当の意味は
 15 まとめ

参考文献

索引

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執筆者一覧

北風政史 国立循環器病研究センター 臨床研究開発部 部長 著

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