発刊にあたって
私が,覚醒下手術を初めて見たのは2007年だったと記憶しています.当大学で行われたグリオーマの手術でした.以後大学での覚醒下手術は多くありませんでしたが,脳腫瘍治療担当医師として年に数回の覚醒下手術を行っていました.2013年7月にフランス モンペリエのDuffau教授を訪ね,覚醒下グリオーマ摘出術を見学させていただきました.手術顕微鏡もナビゲーションも使用しない,覚醒下でのタスクに対する患者さんの反応を頼りにしたマクロの手術でした.テクノロジーが進歩してグリオーマ摘出術に多くの医療機器・技術が導入されている昨今の状況の中にあって,肉眼のみで患者さんの反応および術者の知識と経験に依存した手術は強い衝撃でした.覚醒下手術チームの木下雅史講師,作業療法士の中嶋理帆助教が時期を違えてそれぞれDuffau教授の下で留学生活を送り,また言語聴覚士の沖田浩一氏が同施設に見学に赴き,最先端の覚醒下手術を学びました.これに伴い当施設での覚醒下手術件数は増加しました.しかしながら,我々の覚醒下手術の経験はまだ200件程度です.この200件は毎回が発見で,独自で創意工夫を重ねてきました.運動・感覚・言語のモニタリングのみならず,視覚機能や高次脳機能評価を行うようになって,最近は全国から多くの先生方に見学に来ていただくようになりました.そのような状況の中で,まだまだ少ない経験であっても,覚醒下手術の立ち上げを施設で担う先生方,また施設の覚醒下手術チームの構成メンバーに向けてきっと役立つ本が作れると考え,本書をまとめました.執筆者は当施設の覚醒下手術チームメンバーで,関連するパートをそれぞれ専門分野の観点から担当していただきました.少しでもわかりやすくするために図を多く挿入し,術中videoを多用し専用サイトから閲覧できるようにしました.
また,本書は手術室に持ち込んで,術中に困った時に役立つ本をイメージしています.覚醒下手術に関わる多くの医療者に是非広く読んでいただき,少しでも役に立つことができましたらこの上ない喜びです.
本書の出版に当たり,短い期間で,担当分を書き上げた当院の覚醒下手術チームメンバーに感謝いたします.また,金沢大学の覚醒下手術の黎明期を担われた林 裕 先生(石川県立中央病院脳神経外科部長)と故 濱田潤一郎先生(金沢大学脳神経外科前教授)に感謝いたします.最後に,編集を担当していただきました中外医学社 佐渡眞歩氏,中畑 謙氏には大変お世話になりました.この場を借りまして厚くお礼申し上げます.
2019年 2月
金沢大学医薬保健研究域医学系脳・脊髄機能制御学 教授
中田光俊