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書籍詳細

横断的に見る老年医学

横断的に見る老年医学

−基礎と臨床の間を流離う

山本 章 著

A5判 270頁

定価(本体2,000円 + 税)

ISBN978-4-498-05918-4

2018年10月発行

在庫あり

山本 章 略歴

昭和7年生まれ。昭和30年大阪大学医学部卒業。35年大学院医学研究科終了、医学博士。阪大病院第二内科学教室で脂肪肝の研究に取り組み、昭和38年「肥満外来」を開始。昭和39〜42年米国カリフォルニア州City of Hope Medical CenterのGeorge Rouser博士のもとで脂質分析の開発研究。42年に大阪大学に復帰して「高脂血症外来」を開設。薬物の蓄積に伴う特異なリピドーシスの発見と実態の解明、また遠藤章博士発見の元祖スタチンの臨床開発で実績を上げた。昭和54年国立循環器病センター研究所病因部長、平成元年同研究所副所長となり、「動脈硬化に関連した血漿リポ蛋白異常の遺伝素因と栄養の関連についての研究」とLDLアフェレーシスの開発を推進した。平成7年定年退職、平成8年から箕面市立介護老人保健施設施設長として高齢者の介護と医療に従事。平成21年4月から尼崎介護老人保健施設ブルーベリーに移り、本年3月末退職。日本アフェレーシス学会理事長、日本動脈硬化学会理事、国際アフェレーシス学会理事長、アジア太平洋動脈硬化学会理事長などの役職を歴任、平成11年度日本動脈硬化学会大島賞受賞、2004年度国際アフェレーシス協会Cohn de Laval Prizeを受賞。国立循環器病研究センター・研究所名誉所員。

編著書
「血清脂質─その臨床、基礎、分析法」(中外医学社、1981)
「脂質代謝とその異常」(中外医学社、1985)
「トリグリセライド、HDLと動脈硬化」(フジメディカル出版、2001)
「コレステロールを下げる」(中外医学社、2008)
「脂質代謝の研究から老人医療の現場まで─時代の流れに生きたある医師の回顧」(中外医学社、2008)
「心にゆとりを、言葉にユーモアを─老健で働くある医師からのメッセージ」(中外医学社、2008)
「経験から学ぶ老年医療」(中外医学社、2010)
「ゆとりなき社会への提言─自律・自戒なき自由と、総合的思考を欠落した専門分化は文明を亡ぼす」(中央公論事業出版、2012)
「経験から科学する老年医療」(中外医学社、2013)
「老年医療を通じて知る老化の予防」(中外医学社、2016)

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序文

介護老人保健施設における老年医療22年の回顧

 国立循環器病研究センター(国循)を定年退職した翌年から新設の箕面市立老人保健施設(老健)で働き始めて13年、さらに尼崎老人保健施設ブルーベリーに移って9年、あわせて22年間、管理医師・施設長として老人医療に専念してきました。老健での勤務を始めて暫くの間は、「脳卒中などの後遺症のために普段の生活がまともにできなくなった人々を、国循の後輩に代わって診る」という程度の軽い気持ちでいたのですが、難題が出るごとに文献検索を行いつつ知識を広げて行くうちに、「家庭医としての仕事」と「小さいながら意義のある臨床研究」の意義を感じとれるようになりました。
 私にとって幸いであったのは、老健で仕事を始めて間もなく、「老健に入ってから脚(あし)がむくむようになった」という家族からの苦情を頻回に耳にしたことです。友人に話すと「それはアルブミンが低いからだろう」とか「甲状腺機能低下のせいだろう」という返事が返ってくる中で、BNPと心エコー検査をしてみると、老人性の弁膜症と拡張期心不全が一番大きい原因であることが判明し、これを契機に「コレステロールの山本」から脱却するとともに、初めて「心臓屋」としての経験をもつことができました。
 ほぼ時を同じくして、老健でもできる臨床研究の喜びを知ったのは、高齢者における肺炎球菌ワクチンとインフルエンザワクチン施行の意義について、公衆衛生関係の先生方の調査の手伝いをしたことでした。インフルエンザウイルスの2つの株(Aソ連/H1N1とA香港/H3N2)に対する抗体価が若い施設職員と高齢者で異なっていたことや、ワクチンによる抗体価の上昇が若い職員に比べて高齢者では低いこと、そしてherd効果(集団免疫)という言葉の意味を知ったのは、「いまさら」と笑われるかもしれませんが、貴重な経験でした。
 続いて訪れたのは、MRSA保菌者の扱いの問題でした。老健が作られ始めた平成初期はMRSAの急増に世間が怯えていた時代であり、「鼻腔あるいは咽頭ぬぐいからMRSAが検出された患者の受け入れはお断り」が一般的な風潮でした。しかし、「症状がない保菌者の入所」を断る理由はないように思えたので、入所を許容する代わりに、それを元にMRSAが拡散する危険性がないことを確認するため、毎年、入所者全員についてMRSAの検査を行うことにしました。8年にわたる検索の結果わかったことは、1.MRSAの検出率は病院で抗菌薬治療を受けた人々に高く、他老健あるいは家庭から入所した認知症主体の人々では低いことと、2.MRSAは2年間抗菌薬を使わずにいると消えるという事実でした。ちなみにこの頃は、骨折の術前処置として、感染防止の目的で抗菌薬の長期使用が行われていた時代でした。これを機会に環境感染学会や感染症・化学療法学会に参加して細菌や抗菌薬についての知識も取り入れました。
 箕面から尼崎の老健に移った当初の冬には、RSウイルスによると思われる気管支炎に40人を超える多数の入所者が感染、12人が入院、3人が肺炎で死亡するという、恐ろしい感染の流行を経験しました。この時はChlamydia pneumoniaeの混合感染があり、これが粘稠な喀痰で肺炎を起こす原因となっていたようです。RSウイルスが単なる気道感染症を起こすだけでなく、心筋炎をはじめ、諸臓器に大きい爪痕を残す点でインフルエンザよりも恐ろしいウイルスであることも、この時に学びました。
 年が明け、翌年の梅雨時になって驚いたのはESBL産生大腸菌による尿路感染症の多発でした。ESBLは箕面時代の最後の年に1例経験しただけでしたが、環境感染学会を聴講して、療養型病院でESBLが急激に増加している状況を知りました。筆者にとってラッキーであったのは、Chlamydia pneumoniaeのことを尋ねるつもりで電話した阪大の保健学科の先生(山本容正教授─当時─)から「アジアでのESBLの疫学を調査している」という耳寄りな話を聞いたのがきっかけとなり、早速、施設での調査をしていただけたことです。同教室の大学院学生に、入所者の98%の糞便検査と尿路感染症の人の尿検査を行ってもらった結果、先に挙げたMRSAの場合と同じく、化膿性疾患で入院し抗菌薬の投与を受けたことに加えて、おむつの使用と糖尿病の存在が主要なリスクファクターとして認められました。
 ESBLは、プラスミドを通じて色々な腸内細菌種に伝播し、最近では、尿路感染症の起炎菌として、大腸菌だけでなくProteus属からも検出されるようになっています。欧米ではKlebsiella pneumoniaeにも、大腸菌と同じ頻度で検出されているのですが、幸いにして日本では、ほぼ大腸菌に限られていました。ところがごく最近、施設でも1例、ESBLをもったKlebsiella pneumoniaeが検出され、戦々恐々としています。 大病院ではカルバペネム耐性の緑膿菌やアシネトバクターを抑えるのに精一杯で、ESBLの抑止は中小病院の医師と感染症専門看護師に任され、ESBLはかつてのMRSAと同じく、根絶は諦められている状態です。
 老健における感染症での問題は薬剤耐性菌だけではなく、風邪が流行るたびに、違った種類のウイルス感染の流行に悩まされます。幸いにしてレントゲン専門の山崎医師が週の半分を老健での診療に係わり、CT検査を活用してくれたおかげで、高齢者の肺炎が如何に治りにくいものであるかを認識することができました。ある冬場には、白血球が3,000以下に減少するとともに、縦隔洞や腹膜のリンパ節の腫脹が数人の患者に見つかりました。巷でも白血球の減る風邪が流行っていたようです。CT検査は脳出血や梗塞の診断に加えて、認知症患者の脳の萎縮を診断するのに不可欠です。加えて、老健で働く医師にとってCTがありがたい理由の一つはCOPDの推定診断ができることです。COPDでは再燃(acute exacerbation)がしばしば起こります。スパイロメーターが使えない高齢者の場合、経皮酸素濃度測定とCTの組合せが診断上役に立つ手段であり、総合診療には欠かせない検査です。
 ウイルス感染は毎年免疫系に違った影響を与えます。自己免疫は高齢者において至極ありふれた現象であり、それに薬が絡んで、いくつもの臓器に複雑な病気を生みます。直近の冬場には、糖尿病患者30人のうち3人に急性増悪が起こり、インスリン注射を余儀なくされました。また春から夏にかけては腎機能の一過性の急性増悪もみられました。薬剤過敏症とウイルス感染、あるいは潜在するウイルスの活性化の間には免疫不全を仲立ちとした密接な関連があり、特に高齢者では激烈な症状は出ないものの、副腎機能不全と免疫力低下のために執拗に症状の続くことがよくみかけられます。自己免疫疾患におけるヒトとウイルスの間の抗原類似性は偶然の産物ではなく、病原微生物が我々(宿主)の体内での生き残りをかけて、自分のペプチドの構造を宿主のものに類似させることによって生まれるという考えが定着するようになりました。
 精密診断機器の発達に伴って、人間をあたかも機械のごとく、パーツの寄せ集めのように考える人や、進歩した電子機器を使えば何でもわかると思っている人が多くなりました。しかし生命はそれほど単純なものではなく、臓器はすべて、血液や神経を介して複雑に繋がっていますし、ウイルスや細菌感染、特に前者は一つの臓器、組織に限局したものではありません。対象を絞り込んで診る精密機器が次々に造られていますが、局所にとらわれ過ぎるのも問題です。老年病はまさに「ズームを広げたり、狭めたりしながら見(診)なければならない病気」の象徴ともいえる存在です。 
 筆者が老健での診療で得た知識の中には皮膚科領域のものがかなり多くを占めています。箕面老健時代、病院の皮膚科の診察室に押しかけて行って、顕微鏡で水虫や疥癬を見つける方法を教えていただき、老健で実行することも一つの楽しみでした。薬疹、乾癬、そして高齢者に多い類天疱瘡など、まさに「百聞は一見に如かず」である上に、他の疾患(特に喘息)と合わせて経過を切れ目なしに診ることができるのは、まさに老健医師の特権です。筆者は、皮膚科こそ、「内科の最も重要な一部門」と考えています。筆者にとってもう一つの皮膚科勉強の場は、理事長を務めたこともあるアフェレーシス学会でした。これまでの著書に何度も書いたので、ご存知の読者も多いでしょう。
 高額な治療法の開発は、社会経済の格差の問題と絡み合って、論議の的となっています。しかし、多くの病気で予防の重要性がわかっているにもかかわらず、実現されないままになっているのも現実の姿です。禁煙がその典型例でしょうが、最近では喫煙の減った分、大気汚染が問題として加わってきました。こうしたことを理解するためにも、臨床医は視野を絞って狭い領域に働く研究者や技師としての一面をもちながら、視野を広げて総合的に診て考える総合診療医、家庭医としても働かねばなりません。老年病は、そうした「考える医師・看護師」を育成する格好な場所を与えてくれます。
筆者が老健で行った修業は、1.出来ることは何でもしてみる、2.その都度してみる、3.本や文献を、少しずつ違った視点から調べる、そして4.少しでも掘り下げて考える、でした。1.によって「場」が広がり、2.によって「機会」が多くなり、3.によって「知識の次元」が広がる。そして4.によって「視野」が広く、深くなる。これが、筆者なりの、「総合医療」の実践でした。
 老健では、何か突然の出来事が起こる度に、医療と介護の複雑性を改めて認識する機会が与えられました。また、これまで著した3冊の本では、胆石や尿路結石、そして呼吸器疾患についての記述は限られていました。そこで、今回の著書では、これらの分野を含めて、これまでに抜けていた(がん以外の)分野に補完を行い、病気は決して単純な縦割り式の分類で理解できるものでなく、次元の違ったいくつもの解析の組み合わせを通じて考えなければならないことを解説することにしました。もちろん、自分一人ではできるものではなく、解決はすべて次世代に医師に懸けるものです。
 この著書の最後の部分に、総合医療についての私なりの考えをまとめてみました。その過程で、総合医療推進に助言者を務められた高久史麿自治医大学長が、「基礎的な臨床能力を磨く臨床推論をプライマリ・ケアの中心に据えるべき」という見解を述べておられたことと、神戸大学の岩田健太郎教授(感染症治療学)が週刊医学界新聞に連載執筆しておられる欄に引用されていた有名な経済学者ケインズの言葉「I’d rather be vaguely right than precisely wrong」に惹かれました。私は、総合医療は決して一人の医師では成り立つものでなく、開けた複数の医師の絶え間ない討論を通じて生み出されるものと考えています。その中でこそ、上記の二つの言葉が生かされてくるのではないでしょうか。
 東大老年科の秋下教授らの「高齢者が医療について求めるもの」についての調査によれば、地域で自立している高齢者では「病気の効果的治療」が、そしてデイケアに通っている人々では「身体機能の回復」が1位であったのに対して、医師の意見で一番多かったのは「QOLの改善」であったとのことです。Quality of lifeをWikipediaで引くと、「人がどれだけ人間らしい生活や自分らしい生活を送り、人生に幸福を見出しているかを捉えた概念で、普遍的な尺度はない」とありました。私たち医師は、「老年病の多くは治せない」を前提にして考えているのですが、それに代わるものを患者に与えねばなりません。
 筆者がこれまで、高齢者医療について記述した著書の内容の基本になったのは、施設入所者の病気と治療から得た経験です。筆者も医師として、他の職員らとともに、不自由さの中に何とか頑張っておられる入所者に対して、これ以上悪くなるのを抑えられるよう努力はしたつもりですが、本質的に病を克服するようなお手伝いはできませんでした。そうした事情の中で筆者なりに経験をまとめたのは、人々が同じ苦しみを味合わないよう、次世代の医師や研究者が予防医学の面から、人類という種の維持のために役立ててくれることを願ってのことです。
 アメリカ合衆国では、NIHの傘下にある感染症研究所に、すでに「免疫」という研究対象が付与されています。残念ながら日本では、感染症・免疫という重要な研究テーマを選ぶ若い医学生が減っているようです。免疫関係の論文を読むと、中国の人の名前が目立ちます。しかし彼らのすべてが医師ではありません。研究者に医学的知識は必要ですが、必ずしも医者である必要はありません。臨床医には臨床医の仕事があり、研究者には研究者としての技術と経験が必要です。問題は、両者の間の連携が円滑に進むかどうかであり、この点で日本は遅れています。高久先生がご指摘になった、現在日本の医学教育に欠けている「基礎的な臨床能力を磨く臨床推論」はまさにこの点を突いたものと私は考えています。
 本年3月末86歳で老健の職を辞し、本書の完成に専念しながら、老年医療のあるべき姿を考察してきました。筆者がもどかしく感じていることが、できるだけ早い世代交代のうちに解決してくれることを願う次第です。

2018年7月末日
山本 章

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目 次

第1章 アミロイド関連疾患
 ❶ 血清アミロイドAたんぱく(serum amyloid A protein: SAA)
 ❷ 心臓アミロイドーシス(免疫グロブリン軽鎖アミロイドーシスとトランスサイレチン関連アミロイドーシス)
 ❸ ナトリウム利尿ペプチドもアミロイドか?
 ❹ 考察:アミロイドの本態をもう一度考える

第2章 高齢者に多い薬疹(drug eruption)と免疫再構築症候群(IRIS)
 ❶ 施設で観察される薬疹の実態
 ❷ 眠れるウイルスの目覚め
 ❸ 薬物過敏症の機作を再考する

第3章 自己免疫疾患:抗体病という皮肉な名前がぴったりしてきた
 ❶ 古典的自己免疫疾患の典型例としての重症筋無力症
 ❷ 細菌あるいはウイルス感染との関連性が明らかなギラン・バレ症候群
 ❸ ANCA関連疾患とGoodpasture 症候群:微生物ペプタイドとの相同性から読み取る抗体病の実態
 ❹ 傍腫瘍性神経症候群
 ❺ 自己免疫現象の基本となる、リンパ球による「自己・非自己」の識別機構

第4章 結石症
 ❶ 腎結石
 ❷ 胆石

第5章 COPD (慢性閉塞性肺疾患)
 ❶ 慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease)とは何か
 ❷ COPDと転倒
 ❸ COPDと肺梗塞
 ❹ 施設で起こった事故により、COPDの重要性を改めて認識した話

第6章 CKD(慢性腎臓病):ガイドラインの問題点をつく
 ❶ CKDの定義と段階分類
 ❷ クレアチニン値による重症度判定の問題点
 ❸ 血圧とクレアチニン/アルブミン
 ❹ ESKD(endstage kidney disease)における電解質の変化
 ❺ 慢性腎臓病(CKD)/腎不全の再燃(exacerbation)

第7章 進化し続ける医療のガイドライン
 ❶ 敗血症の診断と治療
 ❷ 生活習慣病:治療ガイドラインに盛り込まれていない裏話
 ❸ 「遵守させるガイドライン」から「医師にも患者にも考えさせる診療指針」への転換:食物アレルギーとPSA
   による前立腺がん診断を見本にして

第8章 医療における情報交換
 ❶ 情報交換に基本的な役割をもつガイドライン
 ❷ 日本の医学・医療に求められる変革
 ❸ 医学・医療の進歩を社会に還元する(大衆に理解してもらう、患者とその家族に病気についての説明をする)
   ことが大切
 ❹ 総合医療は可能か:考える内科医、考える看護師を育てる

謝辞
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